暇潰しの夜

飛鳥

「落とし穴」

「あのですね先輩、とりあえず溺れて死にましょう」

「とりあえずで死なないし、溺れないし、水ない」

 隣を歩くセーラー服の少女がくすくす笑う。キラリと光る十字架ピアス。流行過ぎたルーズソックスは訳ありらしい。関係ないけど、僕は靴ずれが気になっていた。


 踵が痛い。靴紐が硬い。すぐに解けて困るのだ。

「分かりませんよ? 突然、目の前に落とし穴が現れるかもしれません」

「はは、そんなコメディ番組のドッキリじゃあるまいし——」

 瞬間、僕は靴紐を踏んで前のめりになる。

 と同時に、何故か目の前の地面がぽっかり口をあけていることに気がついた。


「…………」

 ——奇跡的に、回避している。あるいは先の少女の言葉が一抹の手助けになったとでも言うのか。僕は、かろうじてぽっかり開いたマンホールの横に倒れ込んで助かったのだった。

 転がり落ちた小石が遠い水音を立てるのを聞いて、少女がくすくすとまた笑う。

 何を隠そう——


「あーあ、惜しかったですね先輩。せっかくあと一歩で同族になれたのですが」


 青空を背景に、差し出された手は半透明。

 楽しげな女子高生——彼女、灰崎ヒカリはユーレイさんなのである。

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