第20話「焔鋼籠手(フランメシュタル)」

 第二十話「焔鋼籠手フランメシュタル


 「だーーーーかーーーーーらーーーーーー!」


 突然大声を張り上げ、良い雰囲気をぶちこわす九宝くほう 戲万ざま


 「この場に居る誰よりも弱いヤツがなに吠えてんだっての!」


 戲万ざまは俺の方を、ばっと勢いよく振り返り、ゲラゲラと笑い転げた。


 「……」


 戲万ざまのあからさまな嘲りも全く気にならない。


 俺にとってそんなことは日常茶飯事だった、いまさら、そんなことに揺らぐような心は持ち合わせていないんだよ!


 「頼む!琉生るい、ブリトラに攻撃を!出来るだけの攻撃を食らわしてくれ!」


 そして、今の今まで、俺の出方を待っていてくれた友にそう声をかけた。


 「!正気か?てめー、相手わかってんのか?」


 戲万ざまは、多分、俺の言った事の意味を理解していない。


 恐怖のあまりか、混乱の極致か、とにかく俺が意味の分からないことを叫んでいると、そう認識して、俺を見下した顔でわらっている。


 「承知!」


 だが、友は。阿薙あなぎ 琉生るいはそれだけ言うと、何の疑問も感じさせずに、戲万ざまの向こう側、ファンデンベルグの軍人達がいる場所に鎮座する鋼鉄の魔神に疾走する!


 「な、なに!」


 「なんだ?あ、悪路王あくろおう!!」


 いきなり矛先を向けられ慌てたのはファンデンベルグの兵達だ。


 「!?」


 ヘルベルト・ギレも呆気にとられて指示を出せない。


 「防衛だ!攻撃には無条件で対処する!」


 アハト・デア・ゾーリンゲンのフォルカー・ハルトマイヤー大尉がそう号令をかけた。


 阿薙あなぎ 琉生るいを迎え撃つよう指示を出す。


 走りながら阿薙あなぎ 琉生るいの体がうっすらと青く染まり、全身に梵字のような黒い模様が浮かび上がる。


 「凶刃の悪路王あくろおう!友のために振るう刃、遮る者は尽く斬る!」


 無口な彼には珍しく、雄叫びを上げていた。


 ザシュッ!


 「ぎゃっ!」


 シュバッ!


 「ぐはっ!」


 行く手を遮る兵士達を宣言通り両断し、斬り伏せる。


 そして琉生るいは瞬く間に巨大な鉄塊に肉薄していた。


 「ちっ!」


 フォルカーとクラウゼンがそれを阻止しようと動こうとする。


 「フォルカーくん!良い!動くな!」


 ヘルベルト・ギレの命令が響く。


 「!」


 呆気に取られ止まる二人の軍人、そしてその間を疾風の如き早さで駆け抜ける、阿薙あなぎ 琉生るい


 ーーズドォォォォーーン!


 その一撃に大地は揺れた。


 鋼鉄の魔神ブリトラ、それから生える二本の頑強な腕が、その巨大な凶器が連動し、交互あるいは同時に、阿薙あなぎ 琉生るいを襲っていた。


 「少佐殿!」


 納得のいかないフォルカーにギレはニヤリと笑う。


 「我らの計画は破綻した、ならせめて、この魔神の……ブリトラの実証実験を完了させるべきでは無いか!」


 「……」


 フォルカーは無言で上官を睨んでいた。


 やはり、この二人は根本的な価値観が相容れないのだろう。



 ーーズドォォォォーーン!


 ーーガシィィィーーーン!



 琉生るいに狙いを定めては大地を突き破る凶悪な四本爪!


 ーーダッダッダッダッ!


 琉生るいはそれを右に左に回避し、その突きたった鋼鉄の左腕を駆け上がる!


 「壱の太刀、大嶽丸おおたけまる!」


 琉生るいの左上腕、小指から肘までの外側がいっそう白い光を放ち、その光の刃が無骨な鉄塊の胸部に一閃した。


 ーーズバァァァァーーーー!


 グラリと揺れる魔神の巨体!


 「弐の太刀、人首丸ひとかべまる!」


 間髪入れずに、今度は光の右上腕を水平に斬りつける。


 ーーズバァァァァーーーー!


 「ぐっ!」


 先程フォルカーとの戦いで痛めた右手も顧みず、全力で白刃を振るう陸奥みちのく悪路王あくろおう


 鋼鉄の魔神ブリトラは、グラグラとブレながらも、両腕を振り回して自身に纏わり付く小賢しい敵を払いのけようとしていた。


 ーーブォォーーン!


 琉生るいは後方から迫る、それを紙一重で躱して、今度は両腕の白刃を合わせ、その魔神の鉄腕に振るっていた。


 ーーガシィィィ


 琉生るいの手刀の衝撃で方向が逸れた魔神の腕は、そのままあらぬ方向に弾かれ飛んでいく。


 「!」


 目の前で無防備なボディを晒す魔神!

 絶好の好機に、至近距離で琉生るいの切れ長の瞳が光った。


 ーーメキメキ!


 金属が引きちぎられる、耳をつんざく不快な音。


 ガキャキャリキャリィィィィ!


 無骨な鉄塊の正面、淀んだ鉛色のボディが大きく引き裂かれていく!


 いや、裂けたように、そこに開いたのは……


 巨大な胴体の半分を占めるような顎門アギト


 ーー貪欲な大食漢の魔王。


 ブリトラのボディに大きく開いた鋼鉄の顎はまさにそのものだった。


 「くっ!」


 ーーガンッ!


 阿薙あなぎ 琉生るいは、空中で捻って、ブリトラのボディを蹴るようにそれを回避するが、勢い余った身体からだは、魔神の胸部上方に接触していた。


 琉生るいは、咄嗟にガシリとそこを掴み落下を防ぐ。


 ーーヴィィィィィィィィーーーーー!


 鋼鉄の顎を大きく裂いたまま、体躯から虫の羽音のような音を出して、振動させる魔神。


 ブリトラの攻撃はまだ終わっていなかった。


 「琉生るい!離れろ、共振破壊だ!」


 鋼鉄の魔神にぶら下がる琉生るいの足下から俺は精一杯叫ぶ。


 「!」


 鉄塊の体に、即座に蹴りを入れて飛び退く阿薙あなぎ 琉生るい


 「ぐ、おぉぉーー」


 しかし、それは僅かに遅かった、ブリトラの破壊の波動を半ば喰らった体は、空中でバランスを崩して地面に落下する。


 ーーズシャァァーー!


 「る、琉生るい!」


 ブリトラの足下まで迫っていた俺は、反対側に落下した琉生るいに駆け寄ろうとする。


 「……つ、続けろ!穂邑ほむら!」


 地面に蹲りながらも彼は俺に促す。


 「……」


 無言で頷いた俺は、正面に聳える鋼鉄の魔神に改めて向き直り、白銀に輝く両手の武装兵器を天に掲げた。


 腕の武装兵器の突起部分、レンズのような装置が天空に向け、一瞬だけキラリと光を放つ。


 「零式サテライトレーザー”ごう”」


 その光に呼応するかのように、天空に明けの明星の如き輝きが瞬いた。


 そこから地上にまで、巨大な定規を当てたかのように綺麗に走る一筋の光線!



 ーーシュドーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 辺り一面が一瞬、目も眩むような明るさに照らされる。


 その様子を一部始終観察していた、老人が、面白くなさそうに呟いていた。


 「いつぞやの衛星兵器か、高出力レーザー、しかしそんな未完成な命中精度の……いや、もし当たったとしても、が魔神には通用はせんぞ!」


 夕暮れ時にさしかかろうかという空。


 少し薄暗くなりつつある空を、束の間だけ白く包んだ光は、やがて収束していく。



 ーー



 ヘルベルト・ギレの予測通り、そこには何の変わりもなく聳え立つ鋼鉄の魔神……そして両腕の武装兵器を天に掲げたままの俺、穂邑ほむら はがねの姿があった……


 「な!……なんだと!」


 期待外れとばかりに呆れていたはずの老人の口から今度は驚愕の声が漏れていた。


 そこには白銀の武装兵器を掲げる俺。


 しかしその白銀の兵器は、パリパリと白い光を放電し、目映い白色に輝く。


 「レ、レーザー兵器のエネルギーを取り込んだのか……しかし、それはあまりにも無謀な……」


 天才のヘルベルト・ギレには理解できないだろう。


 凡庸なる人間は、そこに届くように必死で手を伸ばし、足りない部分は……


 「無茶で埋めるんだよ!」


 俺は、目映く白光し、雷電を纏う武装兵器と化した右腕の武装兵器を振り上げた。


 ーヴゥゥーーーン!

 ーヴゥゥーーーン!

 ーヴゥゥーーーン!

 ーヴゥゥーーーン!

 ーヴゥゥーーーン!


 瞬時に俺と鋼鉄の魔神の間に発現する青い光のサークル!


 しかしそれは驚くべき事に五層に重なるせいえんこう、加速フィールドとなって出現する。


 「三式百五十番”ほうかい”!」


 ズドォォォォォォォォォオオオオオオーーーーーーーーーーーーン!


 天地を揺るがすほどの突貫打撃!


 雷電の力を得た、改良されし破壊の楔が分厚い装甲に挑む。


 天に聳える鋼鉄の魔神の巨体が衝撃でグラグラと大きく揺らいだ。


 「ブッブリトラ!」


 思わず口に出たのだろう、ギレはその名を叫んでいた!


 「まだまだーーー!」


 ーヴゥゥーーーン!

 ーヴゥゥーーーン!

 ーヴゥゥーーーン!

 ーヴゥゥーーーン!

 ーヴゥゥーーーン!


 更に出現する五重に輝く青円光のサークル!


 「三式百五十番”てんほうかい”」


 ズドォォォォォォォォォオオオオオオーーーーーーーーーーーーン!


 間髪入れず打ち込まれるトドメの左腕の追撃!



 ガガガガーーーードドーーーーーーン!


 凄まじい砂煙を上げ、もんどり打って倒れる鋼鉄の魔神の姿がそこにあった。



「どうだ!!」


 俺は崩れ落ちる鉄塊を見ていた。


 プシューーーー!ガシャッガシャッ!


 そして俺の両腕の武装兵器からは、勢いよく蒸気のようなものと長方形のカードリッジが飛び出していた。


 乾いた音と共に地面に落ちるカードリッジ。

 落下の衝撃で、パラパラと複数個の使用済みの麟石リンセキがその内部から大地に散らばっていた。


 「そ……それが……君の切り札か……穂邑ほむら はがねくん」


 少しだけを置き、大地に沈んだ魔神を見つめたままのヘルベルト・ギレが、かつての弟子である俺に問いかけて来た。


 「……本来DEW(ダイレクテッド・エネルギー・ウェポン)という兵器の利点はその指向性と高速性、だが君のあの衛星兵器は命中精度に難がある……小型かつ、高エネルギーを取得するために、かなり特殊な媒体をエネルギー源を利用している代価だろう……たとえば」


 一、二度見ただけで、ほんと、やなジジイだな……


 俺は無言でかつての師と目を合わせている。


 「君のお得意である麟石リンセキ……」


 「……」


 勿論、俺は答えない。


 「ふん、図星か……麟石リンセキはエネルギー源としては申し分ないが、放出されるエネルギーの特異性から制御が容易ではない……ふふ、かなり苦労した事だろう」


 そうだ……だからこそ、俺は……。


 「だからこそ君は、目標を敵ではなく自身の装備する兵器に定めた……もともと麟石リンセキはお互いに反応し合う性質をもつ……」


 そうだ。電波誘導、GPS、その他複合的に誘導し、最終的には、麟石リンセキの性質を利用してその力場を同じ麟石リンセキの兵器である俺の武装兵器に……これならほぼ確実に落とせる!


 俺の表情から答え合わせの要領を得たのだろう、しわくちゃの顔にさらに皺を増やし、笑う老人。


 「しかし、高出力レーザーの熱量は、その武装兵器には負荷が高すぎよう、オーバーヒート覚悟での改良技か……それはあまりにも無謀な計画ではないか?兵器への負担も、成功確率も……結果的にはとても理論的とは言えぬ」


 あのときと同じように、俺の方法を否定するかつての師。


 「そして何よりも重要な事は……それでもブリトラには……我が魔神には……」


 ヘルベルト・ギレは、寧ろ残念そうに首を左右に振り、俺の行動に低評価を下したようだ。



 ーーギ、ギィィィーーーーーーー!


 老人の言葉を証明するかのように、ゆっくりと立ち上がってくる、巨大で無骨な鉄塊。


 ガガガガガーーーーーーーー



 やがて、完全に直立した鋼鉄の魔神には、目に付くような破損は一切無かった。



 「ぎゃははははぁぁーーーーーはぁーーーーーあぁ!」


 突如、柄の悪い中年の男が、品の無い大笑いの声を辺り一面に響かせた。


 「てめぇ、何がやりたいんだ?あ?戦う相手を間違えて、その上、その鉄くずには全く歯が立たない……哀れすぎんぞ!無能者!」


 俺を指さして、あからさまに馬鹿にする九宝くほう 戲万ざま


 「……」


 だが、俺はそんな状況にも全く動じること無く、かつての師、ヘルベルト・ギレを見据えていた。


 「ドクトーレ・ギレ、前に俺は言いましたよね、BTーRTー01べーテー・エルテー・アインスは、高度なハードウェアに対してソフトウェアが惰弱すぎると」


 「?」


 いまさら何をと、ヘルベルト・ギレは俺の顔をマジマジと見る。


 「今のナンバリングは、BTーRTー04べーテー・エルテー・フィーアでしたか、兎に角、ブリトラなるものは、想定外の強大な攻撃を受けると、強力な装甲による防御能力で本体は無事でも、制御システムは停止する……いわゆる落ちるってやつです」


 俺は、あざ笑う戲万ざまを無視して、いまさら何故か昔話をする俺に呆れるギレに、話しを続けた。


 「ふん、そうなっても直ぐに再起動する、問題ない」


 俺の言葉に反論するギレ。


 「そうですね、起動用のシステムデータを読み込み直すんですよドクトーレ、惰弱なシステムでは、それしか対処方法が無かった……ナンバリングが上がってもその欠陥は同様みたいですね……俺が研究室に居たときの、俺が組んだシステムのまんまだ」


 「何が言いたいのだ……君は?」


 ヘルベルト・ギレはいい加減、苛立たしげに声を荒げる。


 「起動時のシステムは、この怪物のコアそのモノだ、例えば、それを変更されていたら……」


 そう言って俺はUSBメモリーをギレの前にちらつかせた。


 ーー!?


 俺の不穏な言葉にギレ老人の顔が強ばった。


 「!、何だと、君は……」


 「はい、ドクトーレ、仕込みました、先程」


 かつての師に悪びれることも無く、堂々と言ってのける俺。


 「……いつからだ、いつからそれを!」


 ギレはというと、手のひらで転がしていたはずのかつての弟子に翻弄されまくっていた。


 「ああ、仕込んだのではなくて、計画ですか?」


 俺はわざとらしく聞き直すとニヤリと口元を緩める。


 「最初からですよ、七年前、あなたにこの研究を任されてからずっと……システムを乗っ取る計画でした、そのための欠陥システムなんです、でも、喜んでください、この、BTーRTー04べーテー・エルテー・フィーア、ブリトラは、いままさに完全に完成形となったのです」


 そう言って俺は、老人と俺の眼前、そこにそびえ立つ、鋼鉄の魔神を指さした。



 ーーヴヴヴゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーン



 俺の言葉と同時に、聳え立つ鋼鉄の魔神、ブリトラが激しく振動し始めた。


 ”共振破壊”の振動とは異なる状態……


 創造主たる天才ヘルベルト・ギレも見たことの無い状態だろう。


 「な、何だと!」


 そう、魔神の生みの親、創造主、その老人の目前で、突如目映い光を放ち、姿を変えゆく鋼鉄の魔神。


 そして、自らが長年の研究の末、創造した怪物が生まれ変わる様を……

 ただ……ただ目を見開いて呆然と見過ごすことしか出来ない老人。


 「これは……夢?、どんな悪夢なのか……?」


 ヘルベルト・ギレは窪んだ目を見開いて呟いていた。



 無骨な鉄塊、鋼鉄の魔神、ブリトラ。


 鉛色の表面がジワリと滲んだように揺らいだかと想うと、それは徐々に目映い光に包まれていく。


 白く白銀しろく輝く鎧の表面は、暫くしてその輝きが収まった後も、まるでその光を焼き付けたような輝きに満ちていた。


 「白銀の……魔神……?」


 そう呟いたのは誰だったろうか……


 まさしく鋼鉄の魔神ブリトラは、白銀の魔神に姿を変えていた。


 それはまるで、俺の……穂邑ほむら はがねの装備する、武装兵器の様に。


 穂邑ほむらはがねの武装兵器そのものの様に。



 「いいえ、ドクトーレ、紛れもない現実です……俺にとっては待ち望んだ、夢にまで待ち望んだ現実リアルです!」


 俺は生まれ変わった、ハクギンの魔神ブリトラを背に老人の方に向き直って、そう言い切っていた。



 「こうくん……」


 雅彌みやびが希望に潤ませた瞳で幼なじみを見る。


 「め、滅茶苦茶するわね……はがね……ほんと……最高だわ」


 傷だらけでへたり込んだままの峰月ほうづき 彩夏あやかは、そういって笑う。


 「……」


 同様に傷だらけで座る阿薙あなぎ 琉生るいは無言で、しかし、その端正な口元に笑みを噛みしめていた。



 「……穂邑ほむら はがねくん……それが……」


 そして、ヘルベルト・ギレが愕然とした表情のままで、目の前の弟子に問うた。


 「はい、これが俺の考案した武装兵器の完成形です」


 「きみは……あまりにも……」


 あまりにもの続きが出てこない老人。


 予想の範疇を超えるまさかの展開に、言葉が続かない、世紀の天才、ヘルベルト・ギレ。



 「……ドクトーレ、俺は取るに足らない凡人です、姫神ひめがみ真神まがみは言うに及ばず、通常の上級士族としても失格の烙印を押された存在……そして活路を求めた科学という分野でも、天才と呼ばれるドクトーレには程遠い」


 俺は今まで持ち続けていた胸中を師に告白する。


 隻眼の竜眼りゅうがん、半端な能力、半端な技術……


 子供の頃から言われなれた嘲笑、”半端者”


 それは俺自身が一番俺に向けて発していた言葉だ。


 「こうくん……」


 ああ、雅彌みやびが遠くで悲しそうな目を向けている。


 違うんだみや、俺は全然卑屈になっていない……いや、なっていたとしても、そのコンプレックスこそが、俺をこの場所に導いた原動力なんだ!


 俺は心配そうな竜の姫に大丈夫だと目配せしてから、再び師に言葉を続けた。


 「そんな俺が事を為すにはどうするか?答えは簡単です。借りてくれば良いんですよ、天才のあなたが創り上げるであろう怪物を、俺自身のちっぽけな能力で対応する必要は無い、それだけのことを考え、準備し、行動したのです……どうです、理にかなっているでしょう」



 「……ひとつ……ひとつだけ聞きたい……この、この君の兵器の名は……」


 ヘルベルト・ギレは少しばかりの沈黙の後、驚くほど冷静な声でそう問いかけてきた。


 ”君の兵器”……


 ヘルベルト・ギレのその言葉が俺の中で反芻される。


 ああ、そうだ、これはもはや俺の兵器だ、俺が七年の歳月を経て手に入れた最強の武器。


 意外な人物からの言葉、師からの言葉……俺の心に、暖かいものが溢れていた。


 いや、まだだ、こんな事で毒気を抜かれては……俺はまだ、まだ何も成してない!何者にもなっていないのだから!


 そして気を取り直した俺は不敵に笑うと、こう応えるのだった。



「……焔鋼籠手フランメシュタル!」


 第二十話「焔鋼籠手フランメシュタル」END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る