第6法 王子。玉子。

 ††† ††† ††† ††† ††† †††


「まずいな……これなら!」


 暗がりの森の中、その者は魔物ビークスと対峙していた。

 その者は風系統の魔法使い。風を操り風圧等で戦う、後衛向けの物だ。


「『ウィンドブラスト』!」


 激しい風が魔物へと向かう。だが魔物の肢体能力は高く容易く避けられてしまう。

 それに、魔法の酷使によって疲労も溜まり危険な状況だ。

 さらに苦痛を呈しているのは、魔物が灼熱の魔法を使っていることだ。風は焔に弾かれ、霧散して終わる。


「くっ、もう終わりか……一国の××として何も出来なかった……」


 「ガルッ!」と吠えつきその者に突進する。命中し、命を落としかねない致命傷となった。

 

 もうだめだ、そう思ったとき――翠色目の少年が、治癒した。


「――『オーバーヒール』」


 その者は突如現れた少年に目を奪われ、言葉を紡げない間に少年は立て続けに魔法を唱えた。すると、魔物は一目散に逃げていった。これは、相手を恐怖感で満たせる『レジストエラー』のせいだろう、とその者は思う。


 少年は、帰っていった。自身の居場所へ。


 残された者は呆気に取られ、暫く身動きが出来なかった。


 ††† ††† †††


 魔法体育館。

 誰でも入ることが出来るが、試合は許可制で、基本的に観戦のみとなっている。

 今日、この日、練習試合が行われると聞いた生徒達は急いでやって来た。


「雛たそが練習試合するってマジ?」

「マジらしいよ。こんなのだよねー」


 そんな中、控え室にいたハクト、水蓮は作戦会議をしていた。


「この局面、どう思う?」


 ハクトは水蓮に設問する。


「そうだね、はじめのうちに舞姫さんを潰していたほうがいいんじゃない?」

「おーけー、それでいこうか」


 魔法の戦いは度々早期ではなく長く続くことのほうが多い。

 そうなってしまうとどうしても体力が持たないため、普通、速攻で決めるようにしている。

 なのでこうして事前に作戦を練るのだ。


 だが、それには一定の仲も必要なわけで……。


 彩翔と雛は別の控え室で作戦会議……ではなく、喧嘩をしていた。


「なんで勝手に決めたの?」

「寧ろ言ったら受けてくれたの!?」

「……その時によるわ」

「やっぱりだめじゃん!」


 どうやら雛は勝手に練習試合を取り決めたことに対しご立腹らしい。無理もないように見えるが今後の成績に関わって来る以上、練習をせねばなるまい。

 

「もういいわ。私が一人で極めるわ」

「……分かった。それで行ってみようか」

「あーあ。お昼まだ途中だったのに……」


 そう言いながら雛は髪色に良く似た眩い綺麗な玉子を口に運んでいる。


「この深みのある味わい……。あなたとは段違いね」

「そりゃ悪かったね!」


 試合の時は、刻々と迫ってきていた。


 †


「事前道理行こう」


 発言したハクト。頷き返した水蓮に宿す目は真剣そのもの。


「了解」


(舞姫さんは一人で動きそうだな……やっぱりもう少し説得すれば良かった……)


 ハクトと水蓮の関係性を羨ましく思いつつ、それでいながら彩翔は悔恨の念を抱いていた。


 ――ブルーパスが始まりのホイッスルを上げる。


 咄嗟に身構えた彩翔は雛の方を向きながら牽制するが、やはり狙いは雛らしく、最序盤猛撃していた。


「『序』!」

「『アクアフレイム』よ!」


 ハクトの定石の合わせ技である序、破、急の三個。これを基本型として戦っている古風な戦法だ。

 一方の雛は――


「『リフレクト』、『フラッシュカバー』」


 重ね技で壁を張りダメージを自信の前で霧散させている。どれをとっても習練された動きである。


「『グレイスチェッカー』!」


 彩翔の後ろから謎の空間が出で、無数の鎖が二人を狙撃した。

 二人は雛に気を取られていたせいでうまく避けきれず衝突。


「彩翔……! 強い!」

「あれを受け続けていたら人溜まりもないわ。混戦覚悟で行きましょう」

「おーけー」


 二人の疎通が終わり雛は魔法をかける。彩翔に。


「『KMATK』」

「!? これは何?」

「私の国の魔法よ。へばったら許さないから」

「……ありがと!」


 『KMATK』。コスモスの仄かな匂いと共に強化された火力。

 二人の密接な魔法の連係は凄まじい!

 威力の上がった彩翔はもう一度魔法を相手に降りそそがせる。


「『レインチェイン』!」


 降り注ぐ一連の鎖に二人は手を出せず鎮圧されていった。


 五分後、その場に残ったのは床一面の穴のみであった。

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