第5法 憂鬱な昼空

「暑い……」


 謎の少女との戦闘から一夜明け、学園に行く彩翔。昨日の雨から一転して晴れたせいか、じめっとした暑さが身に来る。

 

「おはよ、彩翔」


 編入初日に出会って以来行動を共にしているハクトが彩翔に挨拶を交わしに来た。

 どうやら昨日の戦闘の音は余り聞こえなかったようだ。何か結界が張られていたのかもしれない。そういったことに、彩翔は詳しい。何故かというのは……分からない。


「ああ、おはよう。そうだ、一つ頼みたいことがあるんだけど――」


 ††† ††† †††


 晴天の明かりが灯されている教室で、彩翔は雛に話を持ち掛けた。


「舞姫さん、おはよう。お昼頃に一緒に食堂に行かない?」

「何で?友達も作れないの?」

「うっ……それはなにも言えないけど。タッグのことは少しでも知っておきたいからね」

「いいわよ。食堂には先に行っておくわ」


 初めての好感触に彩翔は目をいっぱいに輝かせた。


「ありがとう!じゃあ後でね。といっても席は隣だけどね」

「……そうね」


 嬉しい思いに身を馳せながら席に着く。すると今度は、ハクトから声が来た。それも小さな声で。


「お昼、行けそうだよ。魔法体育館も使えるって」


 魔法体育とは、その名が如くの場所で魔法での殺傷、圧にも耐えれる魔法界隈随一の練習所だ。だがしかし、一般には解放されておらず、在校生のみしか使用できない。

 笑いと喜びの絶えない男である彩翔。


「ほんとか!?助かる!」

「いつでも頼んでね」

「ああ!」


 そうして一時限目、二時限目……と時が進み、お昼となった。

 先に食堂へ行った雛を迎えに行くべく彩翔も立ち上がり、向かおうとするが、一言ハクトに、


「一緒にご飯を食べてからでいいよー」


 と言われたので、甘んじて先に昼を済ませる。

 食堂に行くとやはりというべきか、見れば面白くなる人の量で食堂の中は大混雑だ。

 一頻り探しているとようやく見つけたので話しかける。


「ごめん、遅くなった」

「いいわよ、さっき来たばかりだから」


 女性に言われると苦しい言葉に身を捩り、座った。

 既に彩翔も雛もお昼を注文し、受け取っているので、受け取っているのですぐに食べ始める。


「「いただきま(ーす!)す……」」


 ズレの生じる声握だが、二人はよい形で喋り始めた。


「舞姫さんはどんな魔法が使えるの?」

「私は雷の系統を扱っているわ。あなたは?」


 雷魔法とは、電気を主としている魔法。古代アシュミール人が編み出した魔法だ。


「僕は鎖の系統魔法を扱うよ。それと、素質があったから回復の系統もね」

「へぇ、なら後ろで私を回復させるだけでもいいわね」

「それは嫌だよ!ああ、言うの忘れてたけど後で練習試合するから、よろしくね」


 ハクトに頼んだのも、その事。水蓮とハクト。彩翔と雛とでVSを行うのだ。


「いや、そんなこと聞いてないわよ?」

「だって言うの忘れてたし、ごめんね!でも魔法体育館でするから、ちゃんとしないと減点だよ」

「なんでたまにしか使えない魔法体育館の使用権を持ってるのよ……!」


 若干声を上ずらせ、怒気が含んでいるその声に、彩翔は少し焦りながらも、しっかりと対応する。


「ごめんね、練習の為だから、ね。頼むよ」

「あなた、なかなか悪どいわね……でもまあ、いいわ」

「舞姫さんも、思ってた以上に優しいよ。ありがと」

「っ。そういうお膳立てはいらないわ。早く行きましょう」


 なんとか作戦に成功した彩翔。このあとの練習試合は、学園の生徒達を沸き立たせるものとなるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る