魔法少女だった俺はとりあえず学園のトップを目指すことにする

凱蘭

第1章 魔法少女

第1法 魔法少女の定年と転職

 暗い部屋の中、魔法連盟の一人は苦悶の表情を浮かべていた。

 とある男の処罰、及び猶予決断のためである。


「どう処理するか……」


 側にいたもう一人の中年とおぼしき男性は手にゴマを摩りながら提案する。


「この男を、こうして……こうするといいかと。そうすればうまく奏せると思います」

「それは良いな。ではそう下の奴らにそう伝えたまえ」

「承知いたしました」

 

 中年の男は去っていき、それを確認した男はほくそ笑んでいた。


 ようやく時は来た、と。


  ††† ††† †††


 結月ゆづき彩翔さいしょう(男)は魔法少女だった。

 

 ――定年退職。


 魔法少女は高校一年生の3月以内に退職して高校に編入しなければならない。かくいう彩翔も現役の頃は毎日のようにヒラヒラの服を着てヤクザみたいな悪いやつやチンピラ達を薙ぎ倒していた。勿論例外もあるが。


 そして今日、3月31日。生憎の雨の日だ。

 始めは彩翔からの挨拶からスタート。


「今までありがとうございました!」


 煌めいた豪華な部屋でパチパチと拍手喝采が巻き起こる。普段であればこういった事はしないのだが、彩翔は特別な能力を持っており魔法少女の中でも特に成績が良かった。その賜物たまものか中には、


「行かないでください!」


 と本当に別れを惜しんでいる少年も居るほど。それだけ彩翔は魔法少女の中でのインフルエンサーだった。

 おじさんの飲み会のようにやれ酒みたいな感じじゃなく、高校生や例外が多い為華やかなジュースに美味しいご飯を食べながらとワイワイしていた。

 

 そうして時間が過ぎていきお開きとなった。各々で解散し皆は寮に帰り、彩翔は家へ久方ぶりに帰宅する。


 といっても両親は既に他界しており、今年で中学三年生になる妹の結月結愛ゆめしかいない。

 軽いスキップでお楽しみの帰宅。家の扉を開けると妹が出迎えてくれた。


「お帰り、お兄ちゃん! 久しぶりだね!」

「ああ、ただいま。元気にしてたか?」

「当たり前だよ!」


 やはり心配なもので妹の元気な姿を見たときの安堵感はとても大きい。それに、大きくなって紫紅の髪が長く綺麗に整っている。成長の証だ。


「そういえばお兄ちゃんは今まで何をしてたの?」

「俺は今まで他県で勉強してたんだ。お陰で今なら周辺高校を網羅できるぞ」


 俺、ずっと魔法少女してたぜ。なんて言えるわけもないので、前々から考えていた口あわせですんなり答える。


「へー。じゃあ有名な高校とかに編入するの?」

「ああ、蒼竜そうりゅう学園だ――」



 ――時は遡り、一ヶ月前。魔法少女寮にて。


『彩翔様。編入する高校は決まりましたか?』


 ある日彩翔の専属執事のじぃに訊かれる。彩翔は実際未だに考えていなかったので素直に答える。


『まだだよ。何か良いところでもある?じぃ』

『はい。蒼竜学園というところです。彩翔様なら難なくこなせるかと』


 今まで、彩翔とじぃは持ちつ持たれつの関係であった。特にじぃは彩翔に甘く、彩翔はじぃにベッタリだったのだ。


『じぃが言うなら頼むよ。手続きも頼んでもいい?』

『もちろんです。では』


 じぃは恭しく礼をすると歳を感じさせない修練された動作で部屋から出ていった。


 

 ――そういう訳で彩翔は蒼竜学園への転入が決まった。正直直近一週間は忙しく、まだ調べられていない。そのせいか彩翔は着いてから気長に慣れようとしている。


 妹と話しながら部屋の片付けをする。友達との関係も良好だそうだ。また、料理スキルのほうも上達したとか。

 彩翔の部屋は六畳あり、個人の部屋ならまずまずと言ったところ。

 片付けは午後10時頃に終わった。続いては、風呂。


 (明日からは友達つくって放課後に寄り道して良い生活して……そんでもっていい大学とか行きたいなあ)


 若干熱い入浴剤の入ったお風呂に入りながら未来像を描いていると、妹の声が聞こえてきた。


「バスタオルここに置いとくね」


 どうやら、洗面台にタオルを置いてくれたようだ。彩翔は笑みを浮かべる。


「ありがとう。ついでに背中も洗ってくれるか?」

「えっ!? い、嫌だよっ!」


 結愛のまだ幼い甲高い声に耳を傾けながら、妹の姿を浴室越しにうっすらと見ながら堪能している。端から見れば気持ちの悪いことこの上ないが、結愛の言葉を兄訳すると『でもちょっと……たまには……』と躊躇いがちになると長年の絆が騒いでいたのだ。


「冗談だよ。お前、耳真っ赤だぞ」

「もう、バカっ! 見えないくせにっ」

「ん?いや、普通に見えてるぞ」

「えっ! ――ってやっぱり見えないじゃない!この硝子曇ってるじゃん!」


 プンスカしながら出ていった結愛は柄にもなくまどろっこしい。だが、兄からすれば非常に愛しいもの。一人愛でる兄を余所に妹は感極まっていた。


(お兄ちゃんはいつもこうだった。ほんとにもう!それにしても何でこんな時期に帰ってきたんだろう……まあいっか)


 何も知ろうとせず、省みず。結愛は自室に戻り、彩翔は風呂から出た。


 彩翔に限ってはいい気分のままだったので、この日はすぐ寝た。


 雨はまだ降っていた。


 ††† ††† †††


 4月1日。入学式の日だ。彩翔はすぐ起きて朝と昼のご飯を作り結愛を起こしに行く。

 ノックをすると返事が返ってきた。


「起きてるよー」

「そうかー。朝飯食べるぞ」

「りょうかーい。先行っててね」


 了解、と言ってから一階へ戻る。窓をちらと見ると外は晴れていた。なぜか、晴れ男のようだ。


 いつもは違うのに。


 学校の用意をし、二人でご飯を食べた。良い日常だ。


「それじゃあ行ってくるよ。お前も遅れないようにな」

「うん。それと、お帰り」


 その言葉の裏には何か隠されているのだろうか?思考に耽りたくなる衝動を押さえながら沈痛な顔立ちで答えた。


「ああ、ただいま」


 結愛が学校へ行くと、彩翔は直ぐ様考えを取っ払って近場のバスに乗車し、10分程すると着いた。

 蒼竜学園の外見は、一言で表すなら大きい。並の高校より5回りぐらい大きいだろう。補足をすると、学園自体が明るい藍色になっている。


「で、でけぇな……ここで俺の新生活が始まるのか」


 ここから、彩翔の生活は始まる。


 青い校舎の中へ歩みを進める彩翔。しかし、途端に来た女性とぶつかってしまって――。

 

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