宴と共に

佐藤里音

幼少期

第1話

 その子の名前は ラファエル 普通の村の、至って普通の家庭にその子は生まれた。霞んだ茶色の髪に緑色の目、小さい頃から妙に聡明で直ぐに文字や言葉を覚えてしまった。ただ、それを鼻にかける訳でもなくみんながわからない事があったら教え、周りの人から愛されていた。両親や友人からの愛をたくさん受け、優しい暖かい子に育っていった。

 この世界では五歳になると、教会に赴き『スキル』を授かる。スキルは様々で、『体術』など強力で汎用性の高いものもあれば、『メイ道』のような使い道のわからないものまである。たった一つしか授かる事の出来ない特殊な力、スキル

 その少年もその年、『スキル』を授かった。授かったスキルは『月詠つくよみ』スキルの効果は不明。効果は不明だったが、農家に必要そうなものでもなさそうな為、特に調べる事はなかった。

 その年、ある男がやってきた。


「すまねぇ、ちょいと近くに用事があったんだが、一雨降られちまってよう。一泊させてくんねぇか?」

「それはまぁ、うちみたいな所でよければどうぞ上がってください」


 母はその男を家に入れると家の中の説明を始めた。俺が、家の中で退屈していると、おじさんが俺に話しかけてきた。


「おい、坊主。外の話は聞きたくないか?」


 特にやる事がなく、暇だった俺は「うん」と頷いた。


「今、外じゃあ戦争が起こってる。人も魔族もみんな巻き込んで殺しあってんだ。そこで俺が戦ってるって訳よ。それなりに強いんだぜ。まぁでも戦争なんて俺は好きじゃないんだ、いろんな場所で戦争起こして、いろんな場所の人が死んでる。今は平和かもしれねぇがここにもいつかは戦火が…いや、なんでもねぇ」

「ふーん、おじさんありがと」

「お前、子供らしくねぇな」

(仕方ないだろう。つまらないんだから)

 いつもの時間に目を覚ました僕は外へ出た。農家の朝は早い。畑で重い農具を振るっていると、ヒュン ヒュン と風を切る音が聴こえてきた。俺は好奇心に抗えず、音が聴こえてきた方へ足を進めていった。

 そこでは、昨日のおじさんが剣を振っていた。俺は何故かわからなかったが、それを見続けていた。気づくとだいぶ時間が過ぎてしまい、焦った俺は直ぐに戻ろうとした。だが、落ちていた枝を踏んでしまい パキッ という音が森に響いた。

「誰だ!」

 その声が怖かったのか、声に驚いたのか、俺は固まってしまった。

「なんだ、坊主か」

「…」

「あー、悪い悪いびっくりさせちまったな」

「…い、いえ」

 やっとのことで声を出した。

「そうだ、詫びと言っちゃあなんだが、剣を少し教えてやるよ」

「っ!」

 俺は驚き、頭が一瞬真っ白になった。ドキドキしているのに、妙に頭が冴えて、直ぐにうなづいた。

「まずこれが基本だ」

 そう言うとおじさんは片手剣を上に持っていった。だがその時、おじさんがそれを下に振り下ろす映像が頭の中に流れてきた。そして、おじさんは本当に寸分狂わず剣を振り下ろした。

「っ!」

「どうした?」

「おじさんのスキルって相手に自分のやる行動を送ったりする事の出来るスキルなの?」

「はぁ?そんな訳ないだろ」

「…実は、おじさんが剣を振り下ろす前に頭におじさんが何をするのかの映像が頭に流れてきたんだ」

「…それはお前のスキルの影響かもしれねぇ、坊主 お前のスキルはなんだ」

「つ…つき?つく…そうだ『月詠』だ!」

「そ、そうか。『月詠』ねぇ。多分、相手の行動を先読みするスキルなのかもしれねぇな。まぁ、取り敢えず俺がさっき振ったように剣を振ってみろ」

 そう言っておじさんは一回り小さい剣を渡してきた。

「うん」

 俺は『月詠』で見た映像を思い出しながら剣を振り下ろした。脳に流れてきたのだ、そうそう忘れない。俺はおじさんの振り方に近くなるように剣を振った。

「スキルの影響か、初めてにしては上出来だ」

「ありがとう」

「なぁ、坊主お前剣に興味とかあったりするか?」

「うん」

 その言葉はとても自然に俺の中から出てきた。自分でも驚いた程に。

「そうか。なんなら俺が教えてやろうか?」

「⁉︎…いいの⁉︎」

「ああ」

「ありがとう」


 そうして、俺はおじさんから剣を学ぶ事になった。まあ、学ぶと言ってもただ剣を打ち合うだけだったが。その時から二年が過ぎ。俺の剣の腕は同年代ましてや、ベテランの人にも負けない位強くなっていた。


「もう、俺が教えられる事はない とは言えないが、お前は確実に強くなってる。それはきっとお前に才能があって、それでも努力してきたからだと思う。身体もだいぶ柔らかくなってきて、どっちかって言うとお前の剣は自由だからそのまま伸ばしていけば良いと思う。俺の事情とか色々あってあまり教えてやる時間がなかったが、お前は優秀だったからな。まぁ、またどこかで会えるかもしれないが、取り敢えずさようならだ。頑張れよ。あと、こいつは餞別だ」

 そう言い、一本の片手剣を投げてきた。

「あととっ、ありがとうございます。たくさん努力して、いつかおじさんにまた、会いに生きますから!」

 軽く、振りやすい剣。まだそこまで背の高くない俺にぴったりの長さだった。

「ああ、じゃあな」


 後に知った話だが、おじさんは『雷迅』と呼ばれている名高い剣士だった。二つ名の由来はその剣速と魔法。魔法というのは

 火、水、土、氷、風、雷、光、闇 の八属性があり、人族で闇属性を使えるものは本当に少ない。だが、自分の属性を知るには平民が出せるような金では不可能なため、魔法が使えるのは貴族くらいしかいない。とは言っても、魔力のコントロールなんかは習えば誰にも出来るため、俺も出来る。おじさんは平民だが若い頃に一山当て、その時得た収入で調べたと言っていた。


 そんな感じで俺は平和に育っていった。将来の事は考えた事はなかったが、剣が好きだった。だが、いずれは農家になるのだと思っていた。

 だが、それもあの日壊されてしまった。

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