第2話運命とは果たしてひとつなのだろうか!?

「いってきます」



家を出たところで、はたと彼女と目が合った。


俺は鹿島 轍。


好物はカップラーメン。好きなことは昼寝。特技はネットサーフィン。座右の銘は『世界は美少女でできている』。


そんなしがない高校生である俺の数少ない自慢できる点その1。


(顔は)めちゃくちゃ可愛い幼馴染がいることである。彼女の名前は志水 真理。丸眼鏡の似合うショート美人。物心がついた頃からの腐れ縁だ。


まあ、しかしどこで選択肢をミスったか、現実はエロゲのように甘くはなく、現状ではフラグはまるで息をしていない。

目が合っても無視がお決まりだ。志水は俺なんかに構うことなく、すたすたと先を歩き始めた。


くそっ。折角中学一年生以来の同じクラスだというのに、フラグの一つも建たずに桜の季節は過ぎ去ってしまった。

行動力という言葉が己の辞書から欠落している自分が悪いのだろうけど…。


スカートというこしゃくなベールに秘匿された、発育のよいヒップを眺めながら、一人悶々とする。エロい(確信)。



電車に揺られ、学校に着き、早速読みかけの小説を取り出す。


俺は根詰めて勉強するようなタチではないので、休み時間やることといったら睡眠か読書か。

まさに灰色を体で表しているような学園生活。ちなみに友達と胸をはって言える友達はいない。寂しい哉。


それでも新クラス初めての席替えで唯一の楽しみを得たといってよかろう。

これが俺の数少ない自慢できる点その2。隣の席の子がめっさ美少女。


漆黒のロングに雪のような肌、チャームポイント(であると思われる)泣きボクロ。

エロゲのドSなお姉さま系ヒロインを彷彿とさせる彼女の名前は平田 弥勒。

個人的に黒タイツ属性なのはポイントが高い。


彼女のやることといえば友達と話すでもなく、勉強するでもなく、かといって寝ることでもなく、専ら窓の外を眺めることである。非常にミステリアス。


俺はそんな彼女をチラ見する。


無意識に視線は、衣服の下からでも存在感を放つ彼女の圧倒的なたわわな果実に吸い寄せられてしまう。

これは万有引力の法則とかいうヤツで、質量が大きいほど吸い寄せる力が大きいからね。しょうがないね。byニュートン。


できることならあの胸の谷間に顔を埋めておギャりたいなあ……


変態か。俺。


変態だね。俺。



ページを繰りつつ、チラ見していると、突然第三者の視線を感じた。


辺りを見回してもそれらしき人物は伺えない。

当たり前だ。俺なんかを気にするヤツなんて存在するはずがない。ただ―――教室の一番前の席で、志水が本を呼んでいる姿が目に映った。




キーンコーンカーン…。

昼休みである。俺は足早に購買で謎パンと野菜ジュースを買い、屋上に向かう。


屋上に続く階段が奥まった場所にあるからだろうか。

この学校の屋上の鍵の管理がけっこうズボラなことに気付いている生徒は少ない。

ほぼいないと言っても過言ではないだろう。ゆえに、絶好の穴場である。


雲ひとつない五月の瑠璃色の空を見上げながら、謎パンをかじる。


謎パンというのは購買でのみ購入可能なその名の通り『中に何が入っているのか分からないパン』で、毎日味が変わり、その博打性からしばしば罰ゲームの道具に利用される。

言うまでもないが『購買人気お総菜パンランキング』ではぶっちぎりのワースト。

パッケージから内容物を分からないようにするために成分表示すらされていない徹底ぶり。食品表示法はどうした。


…ぼっちイズ自由。俺は謎パンを平らげて後、その自由を満喫しようと横になる。


なんという至福。まるでこの広大な空を独り占めしている気分。おやすみなさい。


しばらくすると、不意に扉が開く音がした。


来たな。遊馬。


この屈強な体つきの金髪ヤンキーは俺と同じく、いつもここで昼寝をしに来る。


「よう鹿島。今日も早いな」

「そら直行ですから」


怖っ。他愛もない会話を交えつつも、コイツと話す時は内心ヒヤヒヤである。


遊馬はなんというか、声に凄みというか、とんでもない数の修羅場を潜ってきたような強者の圧を感じさせる。


誰もいない屋上で男二人で昼寝。なんという気まずさ。なんという地獄絵図。


――――開眼。


「きゅぴぃぃぃぃぃぃぃいん!!!!」

「ひえっ!?」


俺は突然の遊馬の奇声に思わず悲鳴をあげてしまった。


「鹿島…インスピレーションが降ってきた…。今なら占ってやるぞ」


ああ。コイツ占いが趣味だっけ。


遊馬は時々こうしてインスピレーションが降ってきたら占ってくれる。当たる確率は本人曰く50パーセント。というかその見てくれで占いとか。乙女かよ。


俺は興味半分で承諾する。


「是非占ってくれ」

「おう」


遊馬は数種類のカードを複雑にシャッフルして、上から5枚を並べた。

結果は…。


「鹿島…とても言いにくいんだが…」

「え?」


俺は意外な反応に少し緊張する。


「近々告白されるぞ」


ん?告白?俺が?冗談だろ?


「だ…誰に?」

「そこまでは分からないが…。前途多難波乱万丈の恋と出ている」

「…マジで?」

「俺から言えるアドバイスはひとつ。『強い意志を持て』」


『強い意志を持て』って…。あまり具体性を帯びていないような…。

俺は以前から気になっていたことを尋ねる。


「…確か当たる確率って50パーだったよな」

「いかにも」

「それって保険かけてるよな。当たらなかった時の」

「そういう側面もあるが…。実はこの占い動物相手にはほぼ100パーで当てることができるんだ」

「そりゃすげえ」


俺は舌を巻く。…普通にすごくね?


「だろ?だけど、人間相手には50パー。この意味が分かるか?」

「いや全然」

「人間だけ特殊なんだよ。そもそも用意されてる選択肢の数が」


多世界解釈の話か?確かに人間は他の動物に比べて取りうる行動の幅は広い。


「でっていう」

「いいか?運命なんて存在しないに等しい。俺たちはもとある運命を必要以上に捻じ曲げて生きているからだ。一本の河のようだった世界に人間が洪水を起こした。結果、無数に支流が誕生している」

「お…おう」


遊馬がいつになく饒舌なので、俺は気味が悪くなる。


「鹿島…。お前が救われる世界もどこかにあるはずだ」

「救われる?」



いったい何の話だ?



キーンコーンカーン…。

チャイムと同時に遊馬は屋上を出ていってしまった。

よく分からなかったが、要は動物のようにぼーっとしとけば告白される確率が高くなるってことなのだろうか。


千載一遇のチャンスであるがゆえに、多少面倒なことに巻き込まれても告白されてみたいという気持ちが勝る。


これで告白してくるのが守備範囲外の人だったらどうしよう―――考えても無駄か。

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