密室おべんとう2

@stdnt

第1話

これは実話です!


職場でのお昼。お弁当のふたをあけて、また、ため息をついた。

白いご飯を敷き詰めた上に、今日はピーマンの肉詰めが三つだったはず。

焼き魚の日もある。

おかずとご飯を分けて盛り付けるのが面倒なのと、

この方がご飯に味がつくので、少ないおかずで済むという一人暮らしで得た知恵である。

男の独り暮らし、手製の弁当を持ってくるだけでも上等というものだ。


だが、ため息の原因はそれではなかった。

今日「も」ご飯が足りないのだ。おかずも足りないのだ。


いや、ボリュームに不満なのではない。

つめたはずのご飯とおかずが、ちょうど三分の一ほど、なくなっているのである。

気味が悪いが、仕方なくご飯とおかずの摂取にとりかかる。

食べなきゃ生きてけないからね。


コンビニ弁当でもいいのに、お惣菜でもいいのに、

そうしない理由はただ一つ。節約のためだ。

寝に帰るだけのぼろアパートに住むのも節約のためである。

理由は安月給で大酒飲みだから。

お酒のためにはストイックに節約をする。

ストイックなのか、だらしがないのか。よく考えてみたことはない。


考える前に、のむ。毎晩のルーチンワークである。

朝はいつも二日酔いだから、弁当は前日にこさえて、冷蔵庫だ。

出勤前にそいつを風呂敷でつつむだけでよい。

昨晩もずいぶんのんだ。よくはおぼえていないのが証拠だ。


・・・そんな節約弁当なのに、そこからさらに、ご飯とおかずが失踪してしまうのである。

弁当はいわば「密室」。「密室からの失踪事件」である。不可解すぎる出来事だ。

それでも、今日もやっぱり、明日もやっぱり、そして来年の今頃もやっぱり、失踪事件は続くのであろう。


ほとほと困った迷探偵(=私)は、推理をめぐらす。


Ⅰそもそも失踪はおこっていない?弁当が傾いてご飯がかたより、減ったように見えるだけ?

答え:否。

そうであれば、減ったおかずの説明がつかない。ピーマンの肉詰めは三つだったのだ。

二つではなかったはず。Where is p-man?


Ⅱふたからご飯とおかずがこぼれ出ている?

答え:否。

こぼれ出たなら、こぼれ出たご飯とおかずはどこだ?

お友達のゴキブリっこちゃんか?マウスのねず美ちゃんか?

そもそも弁当のふたはゴムパッキンで囲まれ、プラスチック製のストッパーでカチッと止めるタイプである。どうやってこぼれ出る?



Ⅲ失踪に見せかけた他人の犯行?

探偵(=私)に恨みをもつ人間がこっそり食べちゃってるのか?

答え:否。

弁当をつつむ風呂敷の結び目に自分にしか気が付かない糸くずを差し込んでみた。

第三者が弁当を開けば、糸くずはなくなっているはず。

探偵はだいぶ賢くなってきているのだ。

しかし、お昼に結び目をほどくと、糸くずはそのままであった。

もちろんご飯も、おかずも、三分の一ほど、失踪していた。


探偵の推理は行き詰まり、あきらめた探偵は今日も「スペースを楽しむ、上級者向けランチコース」を摂取していたのだが、この事件、恐怖の結末を迎えることになる。

ヒントはある程度は提示したつもり。続きを読む前に推理してほしい。


姿見を購入した。新人にかわいい女の子が入ってきたのだ。

少しでも自分を良くみせたい。

映った姿と部屋をみて後悔した。購入すべきではなかった。


あきらめて晩酌開始。姿見はいくらで売れるかな。ビール何本分になるかな。

晩酌が進んできた。だいぶ酩酊してきている。いい感じだ。

トイレに立って、柱に足をぶつけた。足もごきげんになってきた。


もうテレビが何を笑かしてるのかも判然としないが、とにかくおかしい。

最高の夜じゃないか。なんて幸せなんだ。


その時、ふと見た姿見に、犯人が映っていた。

犯人はもくもくと弁当を食べている!

犯人と目があった。

というより、目があうタイミングも、驚く瞬間も、まったく同じであった。


事件は意外な展開を持って解決した。

今では、少し余分にご飯を炊いて、弁当とは別の容器に入れて用意している。

犯人に弁当を食べられてはたまらない。

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