恨みの矛先

「古塩ぉおぉぉっっ! きぃさまぁああぁあぁぁっっ!!」


道路標識が自分の体を引き裂くのにも構うことなく、怨嗟の声を迸らせながら肥土透は古塩貴生目掛けて飛び掛かった。嘲笑に歪んだその顔だけを狙って。


「―――――っ!!」


しかし、そんな肥土透の意識は、まるでスイッチを切られるように唐突にバツンと暗転した。


白いトカゲのようなその体は、地中から現れた巨大なミミズのような怪物、<地伏龍虫>ドロァグレデェネの嘴のような口に捕らえられ、腹の中へと消えたのである。


「ク…クク、クァハ、ハハハハハ、アァーハアッハハハハハハハハハ!!」


復讐を成し遂げた古塩貴生は笑った。高らかに笑った。笑った。とにかく笑った。おかしくておかしくてこらえきれないと笑った。


その視線の先に黄三縞神音きみじまかのんの姿を見付けても、


ゴオ!!と、自分とドロァグレデェネの体が凄まじい炎に包まれても、


「ハーッハハハァハハハッッ!!」


と、ただ狂気に満ちた笑い声を上げていただけだった。


そうだ。こいつは目的を果たしたのだ。だからもう、どうでもよかったのである。自分自身さえどうなろうと。


こいつらはそういう奴らだ。目先の愉悦に自身の存在さえ懸けるというな。


こうして、サタニキール=ヴェルナギュアヌェは、依代である古塩貴生の肉体ごと、今度こそ塵と化して消え去ったのであった。


「……」


そして残ったのは、涙を浮かべ、怒った顔をした黄三縞神音だけだった。カハ=レルゼルブゥアには人間のような<心>などないが、黄三縞神音としては母親に対する情はあったのだろう。


だが、母を喪った幼子として泣く暇さえ、与えてはもらえなかった。


ミサイルのような何かが凄まじい速度で突っ込んできたからだ。


ガーンッッ!!という爆発音と共に瓦礫が弾け飛び、弾丸のように周囲を撃つ。当然、黄三縞神音にもそれらは襲い掛かるが、そんなものは埃ほどもダメージを与えられない。


黄三縞神音は見た。そこに小さな人影が立っているのを。


「ふん……」


ショ=エルミナーレだった。自分との勝負の途中で突然いなくなったこいつを追ってきたのだ。


「……っ!!」


そのショ=エルミナーレを見る黄三縞神音の目にも、先程までとは違う、明らかな憎悪が煮え滾っていた。


逆立った髪が天を衝き、まるで炎のような激しい憤怒が実際に炎となって溢れだし、周囲を焼き尽くす。


地面も灼熱し瞬く間にスープのようにとろけた。


母を殺された恨みの矛先を見付けた者の目が、ショ=エルミナーレを射殺さんとばかりに向けられていたのだった。



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