子供のケンカ

引きちぎられた体を一瞬で巻き戻し、やはり巻き戻して元の姿に戻ったショ=エルミナーレと両手を組み合って、幼女の姿をした二柱の邪神は力比べを始める。


黄三縞神音が大きく振りかぶってガツンと頭を叩き付けると、ショ=エルミナーレも負けじと頭を叩き付けてくる。共に額が割れて血が噴き出しても何度もガツンガツンとぶつけ合い、やがてゴリゴリと互いの頭を擦り付けるように押し合った。


「がぎぎぎぎぎぎぎぎ!!」


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」


完全に拮抗したその押し合いに業を煮やしたショ=エルミナーレが頭をずらす。すると今度は互いの肩がぶつかり合い、その瞬間にぐあっと口を大きく開いて黄三縞神音の肩に噛み付いた。


「があっっ!!」


っと声を上げた黄三縞神音も、やはり負けじとショ=エルミナーレの肩に食らいつく。


その様子は、幼女が二人、ケンカの果てに互いに引くに行けなくなって相手の肩に噛み付いて意地の張り合いをしているようにも見えたのだった。




そんな感じで幼女共が子供のケンカのような真似をしていた頃、娘に完全に取り残された形の黄三縞亜蓮きみじまあれんは、エニュラビルヌ(=肥土透)と共に化生共を薙ぎ払っていた。力の使い方にも慣れてきたのだが、制服姿で自在にバールを振り回し怪物共を粉砕していくその姿は、いささかシュールなものがあった。


だがその時、エニュラビルヌが何かの気配を察したかのようにハッと視線を向けた。そして黄三縞亜蓮を守ろうとするかのように寄り添ってくる。


「肥土君、どうしたの…?」


そう言った黄三縞亜蓮の視界の端に、人影が見えた。


「―――――っっ!?」


ギョッとした表情でそちらに視線を向けると、黄三縞亜蓮の顔が青褪めていく。


「古塩くん……」


絞り出すように言葉を漏らした黄三縞亜蓮に対してニヤァっと笑ったのは、確かに古塩貴生ふるしおきせいであった。この機会を窺っていたのだ。黄三縞神音が黄三縞亜蓮の傍を離れるこの機会を。


右手に巨大な鉤爪を出し、道路標識をそれで薙ぐと、先の尖った鉄パイプとなった。それを掴み、黄三縞亜蓮目掛けて投げつける。


だが、身を挺して庇ったエニュラビルヌ(=肥土透)の体にゾブリと刺さり、僅かに軌道が逸れて黄三縞亜蓮には当たらなかった。しかし、標識の部分が引っかかって宙を舞い、まるで昆虫標本のようにビルの壁へと縫い付けられた。謀られたのだ。黄三縞亜蓮を狙えばエニュラビルヌ(=肥土透)の方から当たりに来てくれると。


「黄三縞ぁっっ!!」


肥土透の声は、殆ど悲鳴のような絶叫だった。


その目の前で、黄三縞亜蓮の体が、古塩貴生の、サタニキール=ヴェルナギュアヌェの爪によって引き裂かれ、形を失っていった。肥土透にはその光景がスローモーションのようにゆっくりと見えた気がした。


自分を見詰めて涙を浮かべた少女の体がバラバラになり、頭が握り潰されてスイカのように爆ぜるのを、肥土透はすべて目の当たりにしてしまったのだった。


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