褒めてつかわす……!

「グゥアアァオォォアアァアァァァオォォォォっっ!!」


とてつもない咆哮が爆発するように空気を叩き、弱っていた建物などはその圧力だけで倒壊した。


ドラゴンだった。何故かドラゴンが現れたのだ。口を大きく開け、問答無用とばかりに炎のブレスが迸る。クラゲの怪獣の一部が消滅し、叩き付けられるように地面に落ちた。


私がドラゴンの方に視線を向けると、その背後に見知った姿があった。新伊崎千晶だ。<引き裂かれし門>メヒェネレニィカを従えた新伊崎千晶がそこにいた。


「ふん、なるほどな」


私はピンと来た。私の力で強化されているとは言っても新伊崎千晶の召喚術が及ぶ範囲にドラゴンが存在する惑星などないし、別の世界の門を開く方法を学んでいなかったあいつに異世界からドラゴンを呼ぶ力も無い。だからあいつはまず、メヒェネレニィカを召喚したのだ。メヒェネレニィカが繋ぐ別の世界からドラゴンを召喚する為に。


「まったく、悪知恵の働く奴だ。褒めてつかわす……!」


ということで、クラゲ怪獣はドラゴンに任せ、私は再びレゼヌゥケショネフォオアへと飛び掛かった。髪を四枚の刃を兼ねた翼に変え、人間の目ではまったく捉えることのできない速度で、奴の触手と切り結ぶ。


ガガガガガガガガガガッッという振動のような衝撃音が響き、私と奴の間の空気さえ裂けた。それは突風となり渦を巻く。どちらが先にバテるかの我慢比べだな。


その頃、ショ=クォ=ヨ=ムイと化した代田真登美しろたまとみに容赦ない攻撃を加えていた黄三縞神音きみじまかのんは笑っていた。と言っても、並の人間が見たら恐怖で小便をちびる狂気の笑みだが。


己の力に今の体が慣れてきて引き出せるようになってきたからだ。それが嬉しくて勝手に顔が歪んでしまうのだ。


そんな二柱の邪神を前に、黄三縞亜蓮きみじまあれんは何もすることができなかった。我が子を守りたい、力になりたいという気持ちはあるものの、あまりに次元が違い過ぎて手出しすらできないのである。だから結局、自分に襲い掛かってくる化生共を手にしたバールで撃退するくらいしかできなかった。気が付いたらバールを手にしていた。それが黄三縞亜蓮がイメージした武器だったということだ。


しかし取り敢えず自分の身は自分で守ることができてるので、黄三縞神音としても心置きなくショ=クォ=ヨ=ムイと戦うことができていた。得意の炎熱の力ではなく、ただの殴り合いで。


そう、あくまでありものの人間の体に乗り移っているだけのショ=クォ=ヨ=ムイと、自分用の体を作り上げたカハ=レルゼルブゥアとでは器の差が大きかったのである。


もっとも、その程度のことはショ=クォ=ヨ=ムイも承知していたのだが。だから、


「さすがに強いわねえ。あなただったらあの子も満足するかしら」


と笑い、距離を取った。そして空間を折り返し、まるで回転扉のように入れ替わる。捩じられた空間の向こうに姿が消える寸前、いやらしい笑みを浮かべながら奴は言った。


「じゃあ、この子と遊んであげてね」


ショ=クォ=ヨ=ムイが姿を消したそこにいたのは、黄三縞神音よりは僅かに大きいかなという感じの、しかし同じように愛想の悪い可愛げのない表情をした、白いローブのようなものを纏った幼女だった。


ショ=エルミナーレだ。


「カァアァァアアァァッッ!!」


「フシィィイイィィィッッ!!」


そうして向かい合った二人の幼女は、互いに狂気に満ちた歪んだ笑顔を浮かべたのだった。


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