同窓会

「クハアアァァアァ…っ! カッッ!!」


黄三縞神音きみじまかのんが、グパァッと口を大きく開き、プラズマの火球を放つ。


片腕を失ってもそれを意にも介さず古塩貴生ふるしおきせいは身を躱したが、その動きは読まれていたようだ。


「が……っ!?」


躱した先の空間そのものが灼熱化し、一瞬で全身が炎に包まれる。


「…あ……ぁあ……が…ぁ……っ!!」


炎の中で身を捩る古塩貴生の体が数秒で炭化し、それすら燃え尽きていくのが見えた。


が、黄三縞神音は忌々し気に呟いた。


「にげられた…」


そう、古塩貴生としての肉体の大部分は焼き尽くされたが、サタニキール=ヴェルナギュアヌェそのものは逃げ延びたようだ。そこに私は空間を超えて合流した。


「逃げられたのか? 勘が鈍ったな」


一目で状況を把握した私がそう言うと、黄三縞神音がギロリと私を睨み付けながら応えた。


「うるさい…」


ふん、可愛げのない奴だ。まあいい。それよりと視線を向けると、赤島出姫織あかしまできおり新伊崎千晶にいざきちあき日守かもりこよみの<影>がそれぞれ闘っている最中だった。


それは連中に任せておいて、今は黄三縞亜蓮きみじまあれんをどうにかせんとなと視線を向けようとした時、


「む……っ!?」


私の背筋をゾクリとしたものが駆け抜けた。


視界の隅に、空中を漂うクラゲのようなものを捉える。それも、凄まじい数だ。そいつらが次々と人間を襲い食らっているのが分かった。


私にはそれが何者かすぐに分かってしまう。だからそれを口にする。


「…そうか、奴が近付いたからな。当然お前の力も増すか……


<狂える母神>レゼヌゥケショネフォオア!」


人間達が逃げ惑う道路を、悠然と三つの人影が歩いてくる。一人は当然、レゼヌゥケショネフォオアの宿主となった玖島楓恋くじまかれんだったが、残る二人の姿を見て、私は苦笑いを浮かべるしかできなかった。


「……貴志騨一成きしだかずしげ。お前はまあそうなるよな。


だが、お前もそちらに付くか、代田真登美しろたまとみ。いや、ショ=クォ=ヨ=ムイ…!」


私の言葉に、代田真登美が、代田真登美の体を使ったショ=クォ=ヨ=ムイが、ニヤァっと狂悦の笑みを浮かべていた。


「当然でしょ? 私はあなたに嫌がらせをする為にここにいるんだから」


そうなのだ。こいつは新伊崎千晶の体を離れてからずっと、代田真登美の中に隠れていたのだ。ムァシュフヌレヒニの<嘘>を使い、私に悟られないようにして。だからこいつだけが、私との強い因縁を持ってしまっていた従来の自然科学部の部員の中で唯一、化生に憑かれずに済んできたのである。


私もたまたまかと思っていたのだが、このタイミングでレゼヌゥケショネフォオアに意識を乗っ取られた玖島楓恋と一緒に現れては、もはや悟るしかなかった。


代田真登美と玖島楓恋がこうなっては、貴志騨一成がそちらに付くのは仕方のないことだろう。あいつにとって大切なのは代田真登美と玖島楓恋だけだからな。


「そんな……先輩方が……」


黄三縞亜蓮が泣きそうな顔でそう呟いたが、代田真登美のことはともかく玖島楓恋についてはこうなることは分かっていたのだ。夫であるハリハ=ンシュフレフアが近付けばレゼヌゥケショネフォオアの力が増し、玖島楓恋の体の支配を奪われることは。とは言え、もう既に十分、役に立ってくれたが。


こうして、若干名の欠員はありつつも、自然科学部の主要メンバーとOGと、縁のある人間が、一堂に会したということである。いささか早いが、同窓会のようなものか。


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