復讐は完成される

私がケベロ=スヴラケニヌと睨み合っていた頃、病院では赤島出姫織あかしまできおり新伊崎千晶にいざきちあきが、私の<影>の協力も得ながら古塩貴生ふるしおきせいの相手をしていた。さすがに三対一となれば何とか互角の勝負になっていた。


とは言え、古塩貴生の狙いは自分をフった黄三縞亜蓮きみじまあれんである。その邪魔をする奴に対して明らかに苛立っていた。だからまた呼び出したのだろう。三人に対してそれぞれぶつける為に。


赤島出姫織の前に現れたのは、<凶暴なる牛魔>ムォゥルォオークフ。


新伊崎千晶の前に現れたのは、<悪辣なる蜘蛛>ベニュレクリドゥカニァ。


日守こよみの影の前に現れたのは、<病風やみかぜの落とし子>ハスハ=ヌェリクレシャハであった。


しかも、この時のムォゥルォオークフとベニュレクリドゥカニァは、普通はなかなかお目に掛かれないほどの飛び切り強力な個体だった。


「あ、こら、待て!!」


自分達にそいつらを押し付けて黄三縞亜蓮の方へと走った古塩貴生に赤島出姫織がそう声を掛けたが、今回のムォゥルォオークフを前にしては動きが取れなかった。


「行かせない!」


エニュラビルヌ本来の姿となった肥土透ひどとおるが立ちはだかっても、既にさっきの戦いで自分の方が圧倒的に強いことを確認していた古塩貴生は、言葉すら発することなくただ蔑むように嘲笑を浴びせただけだった。かつての屈辱は、もう晴らせたということなのだろう。


…いや、まだか。さらにこの上で、肥土透の目の前で黄三縞亜蓮を引き裂き殺すことで、こいつの復讐は完成されるものと思われる。


古塩貴生め、女にフられたのがそんなに悔しいか。ケツの穴の小さい奴だ。


「ガアッッ!!」


肥土透でもあるエニュラビルヌでは全く歯が立たない。腕の一振りで弾きとばされ、ビルへと叩き付けられた。


「肥土くん!!」


黄三縞亜蓮が悲鳴にも似た声を上げる。すると古塩貴生はそれがまた気に入らなかったのだろうな。凄まじい表情を向けた。


「ひ……っ!?」


怯えて青褪めた黄三縞亜蓮に、古塩貴生が迫る。


「……っ!?」


だが、伸ばされた奴の手は黄三縞亜蓮には届かなかった。腕ごともぎ取られてしまったからだ。


もぎ取ったその腕をバリバリと貪りながら、<そいつ>は古塩貴生を睨み付けていた。


黄三縞神音きみじまかのんだ。口の周りを血まみれにして、冷淡な視線を奴に、<血縁上の自分の父親>に向けていた。もっとも、カハ=レルゼルブゥアでもあるこいつにそんな情はない。自分の母体であった黄三縞亜蓮に対してはある程度のものは持っていても、母親を害そうとするモノに対する容赦など微塵も持ち合わせてはいないのだ。


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