軍人

エイドリアン・メルケルは、愛国心に燃える真面目なドイツ軍人だった。故に西方戦役の前線に派遣され祖国の為に粉骨砕身励むつもりだった。にも拘らず、前線で出た食事に含まれていたジャガイモの毒に当たって食中毒を起こし、体力が弱ったところで黄色ブドウ球菌による感染症を併発。最後は敗血症で死んだ。その無念たるやまさに慙愧に堪えんというやつだろう。


だからこいつは、


『敵を討ち滅ぼしお役に立ちたい!』


という妄執に憑りつかれていると言えた。こいつが守るべきドイツ帝国は既にないが、人類に仇なす怪物共を撃滅するという目的が、今のこいつの行動理念である。


その為、こいつにとっては化生共を攻撃していた人間の軍隊は友軍という認識だった。それが犠牲となったことで、こいつの軍人魂とやらにさらに火が点いたようだ。第一次世界大戦中にドイツ軍で制式採用されていたGew98に銃剣をつけたものを手にしていたが、もちろんそれは見た目だけで、私の力によって顕現し弾丸の補充の必要もなく、通常の弾丸はもちろんのこと、それをプラズマ化して放つこともできる凶悪な武器だった。しかもこいつはそんな銃を自在に操り、人間には不可能な速さで連射し、化生共を撃破していく。


そして、こいつの為の相手も現れたようだった。


そいつは、カエルに似た怪物だった。と言ってもブジュヌレンとはまた違う。姿はよく似ているが遥かに大きくもはやグリズリー並みの巨大さで、当然の如く力も強く格が違う強力な奴だった。名前はボゲルヌギッショセ。六本指の親指が巨大な刃になっていて獲物の首を刎ねるのが得意であり、<ギロチン君主>という異名を持つ魔王級の化生だ。


「カエル野郎が……カエルばっかり食っててとうとう本当にカエルになったか!?」


銃を構えたエイドリアン・メルケルが忌々し気にそう吐き捨てる。西方戦役に派遣されたからな、フランス軍が相手だったしカエルが嫌いだったのだ。しかもボゲルヌギッショセの方もこいつのことが何か気に入らなかったらしく、酷く露骨に敵意を向けてきていた。


エイドリアン・メルケルが銃を放つと、奴は、その巨体からは想像もつかない速さで動き、それを躱した。そして一瞬で間合いを詰めて親指の刃で首の辺りを薙ぎ払う。


「……!」


もちろん黙ってやられてやる訳もないので、間合いを取って寸でで躱し、同時に銃剣を奴の腹に向けて突き出した。が、並の剣よりは遥かに切れ味が上がっている筈の切っ先がまったく刺さる気配もなく弾かれる。柔らかそうな皮膚をしているくせに相変わらず頑丈な奴だ。


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