刺突蜥蜴
「なんだよ~! せっかくイってたところだったのにぃ!」
自ら切り落とした首を素材として元のコンスタンティア・エリントンに戻った少女は、不満げに唇を尖らせながら串刺しになった首から下を見た。
その背中に、トカゲのようなものがうねうねと蠢きながら群がっている。<身長五メートルほどのコンスタンティア・エリントン>の体を貫いた剣のようなものは、そいつらの異様に長い角だったのだ。
<刺突蜥蜴>ドルケミュイヌル。
刺突蜥蜴の異名通り、その剣のような角を武器に突っ込んでくるだけの下等な化生だ。だがこいつらは気配を隠すのが異様にうまく、相手に悟られずに死角から凄まじいスピードで突っ込んでくるのである。
特に先程のようにロヴォネ=レムゥセヘエを倒して悦に入っていたコンスタンティア・エリントンの如く隙を見せればそれこそこいつらの絶好の的になる。
「……」
すると少女の前に立ち塞がる影があった。ブリギッテ・シェーンベルクだった。
エプロンを身に着けたいかにも<普通の主婦>といういでたちながら、ただ正面だけを見据えるその目は完全に病んでいた。まあ。無理もないだろうがな。愛する夫との間にようやくできた赤子を連続殺人犯に腹を裂かれて掴み出されて目の前で切り刻まれ、悲しみと怒りと憎悪と絶望の中で失血死した女ともなれば。
「…死ね…!」
女がそう口にすると、ドルケミュイヌル共が見る間に腐れて溶け落ちた。女の怨念が、
殺人鬼であるコンスタンティア・エリントン。
殺人鬼に赤子と共に殺されたブリギッテ・シェーンベルク。
本来ならこいつらは加害者と被害者のような立場ではあるが、どちらも私なので、相手を混同することはない。きちんと化生共が相手であるということは理解している。
加えて、ブリギッテ・シェーンベルクと赤子を殺した殺人鬼は、化生に憑かれた人間だったからな。だから復讐の相手としては間違っていないとも言えた。
「…そんなんで面白いの? オバサン」
自分の
「……」
だがそれには答えず、ブリギッテ・シェーンベルクは次の化生へと視線を向ける。
「…死ね…!」
やはり淡々と呪いの言葉を吐き、女は少女の前から離れていった。
実を言うと、ブリギッテ・シェーンベルクには憎い化生共の姿しか見えていなかったのだ。コンスタンティア・エリントンの前に立ったのは、たまたまでしかなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます