戦神

ロヴォネ=レムゥセヘエ。


甲虫を無理矢理人間に似せて作ったかのようなそいつは、大きさおよそ五十メートル。頭に見える部分には真っ赤な十二個の目が並び、私達を見下ろしている。<戦神>とも称される、戦うことだけが存在意義という戦闘狂だ。


そのロヴォネ=レムゥセヘエ目掛けて人間共の戦車砲が集中する。新たに現れたヤバそうな奴をまず撃破しようと考えたのだろう。


凄まじい勢いで次々と着弾する。


結界があるから私達のところまでは届かないが、なければ衝撃波だけでも普通の人間じゃ耐えられないレベルだったかもしれん。


だがそれらは奴の体から傘のように広がり体を覆った殻に阻まれ、届かなかった。


奴の体は、強力な攻撃を受けると表面の数ミリが激しく燃焼し爆発。攻撃を相殺してしまうのだ。


あれだ。人間が作った<リアクティブアーマー>とか呼ばれるやつと似たようなものだ。しかも体の内側からどんどん新しい殻が作られるので、人間が使う装甲のような事実上の使い捨てででもなければ劣化もない。これは強敵だぞ。


ロヴォネ=レムゥセヘエは、自分を攻撃している人間共の方に視線を向けた。


『ああ、こりゃヤバいな……』


と私は思ったが、その予感は現実のものとなった。グパァと口を大きく開き、体内で加熱した金属粒子を、巨大な体が発生させる大電力で加速し射出する。平たく言えばリニアカノンとかいうやつか。こいつの場合はさらに物理法則も捻じ曲げてるから、今の人間の技術では再現できない威力も持つ。


「!」


カアッと眩しい光を放ちながら真っ直ぐに迸ったそれは、人間共が展開していた戦車群の辺りに着弾すると、直径約百メートル、高さ約二千メートルの火柱となってあらゆるものを一瞬で焼き尽くした。さらに衝撃波が周囲にあるものさえなぎ倒す。こりゃひどい。


一撃で人間共を沈黙させたロヴォネ=レムゥセヘエが、私達の方に向き直る。私達に対してもあれを撃つ気だ。他の化生共も巻き添えにして。だが、そうはさせん。


「させるかあっっ!!」


私の意識と同調した藤波沙代里ふじなみさよりが、周囲にある瓦礫や化生共の体を巻き上げつつ宙に跳び上がり、それを再構成して自らの体と化した。身長四十メートルの巨大JKの誕生である。


「うるぅああぁっ!!」


叫びながらロヴォネ=レムゥセヘエに組みつく藤波沙代里だったが、真っ赤なミニスカートの私服そのままの格好を再現したものだから下から見れば大変壮観な光景だった。女が肌を晒すことに対して非常に煩い連中からすればこれはまさに神とやらへの冒涜以外の何ものでもないだろう。


もっともそれ以上に、身長数十メートルの巨人同士が取っ組み合いをしてるのだから、地上は大変なことになっているがな。


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