リアルに描けば

文明的には西ローマ帝国滅亡後(あくまで衰退しただけであって<滅亡>ではないという話もあるが、私にとってはどうでもいいことだ)くらいなので、まだトイレ事情的には古代ローマ帝国時代に似たそれが残っており、幸いなことに後の、


『ありとあらゆる場所にクソや汚物がうず高く積もり、目に染みるほどの悪臭に満ちていた』


時代ではなかったようだ。


加えて、決して栄えた<街>ではなかったことで、糞尿の始末は豚などにやらせていたのが間に合っていて、まあ、酷いことにはなっていない。


それでも、現代日本の基準や感覚からすれば臭く、不潔な宿屋だろうな。完全に保健所の指導が入るどころか、衛生面の点からおよそ宿泊施設としての許可は下りないレベルだろう。


が、その辺りはいかんせん技術が未発達なんだからどうしようもない。ここで暮らしている人間にとってはこれが普通だから気にしていないし。


とは言え、藍繪正真らんかいしょうまにとってはとても寛げるような場所ではなかった。


『なんだよ、これ……!』


粗末なベッドと申し訳程度の調度品が置かれた部屋には風呂もトイレもなく、どちらも共同である。各室に風呂とトイレが完備された宿泊施設など、それこそ近代以降の話だ。


それでもここはまだ、『体を洗う』習慣は残っていたようだから湯あみができる<風呂のようなもの>があるだけマシな方だろう。


とかく、中世ヨーロッパ風の世界を舞台にしたフィクションなんかについては『世界観がリアルじゃない』とか難癖をつける奴がいるが、本当にリアルに描写したらどうなるか考えて言っているのか? お前は<中世ヨーロッパのリアル>をどこまで知っていると言うんだ?


そのくせ、


『フィクションの中でまで世知辛い現実を見たくない』


などと言う。リアルなのがいいのかダメなのか、どっちなんだ? おお?


<リアルな描写>に拘るなら、


<スカッとする話>


など、描けるわけがないだろうが。現実はそんなに甘くない。スカッとする戦闘や復讐劇などそれこそ有り得ない。戦闘や復讐劇がもたらすあらゆる影響が描かれなければそれはリアルとは言えん。


そしてそこをリアルに描けば結局はただただ胸糞悪い話で終わるだけだ。


『説教臭いこと言うな!』


だと? リアルに拘るならそういうことだと説明してるだけだぞ? それが説教臭いだとか、何を甘ったれたことをホザいてるか。


フィクションにおける<リアルな描写>など、ただの調味料に過ぎん。そしてどういう味付けが好みかは、完全に個人の問題だ。味付けが好みじゃないなら無理に食うな。


薬莢が付いたままで弾丸が飛んでようと、四十五口径のマグナムの威力がまるで対物ライフル並みに描かれてようと、そんなこと気にしない奴は気にしないのだ。


まあ、余談ではあるがな。


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