咄嗟
セクシャルな気配がそのまま固まって形を成したかのような雰囲気のそれは、若い女だった。
「楓恋……っ!」
貴志騨一成が声を上げる。
そう、その若い女は、
「…え?」
突然、自分の名を呼ばれたことで呆気にとられた表情になった玖島楓恋の目の前で、何かが空中でガツンとぶつかり合った。
そしてそれぞれが弾け飛ぶようにして地面へと着地する。
貴志騨一成と、
しかし、貴志騨一成の姿も、もはや人間のそれではなかったが。
なのにそれを見た玖島楓恋は、
「貴志騨くん!?」
と声を上げる。
まあ、玖島楓恋が知る
「ア…ぶ、ナイ……に、ゲロ……」
もはやとても人間のそれではない声色で貴志騨一成は玖島楓恋に警告した。
知らない人間が聞いたらもはや何を言ってるかも聞き取れなかったかもしれないそれを聞きとり、玖島楓恋は、
「あ…うん…!」
と言われた通り自転車のペダルに足を掛け、ハンドルを大きく切ってUターンしようとした。
普通の人間なら状況が掴めず戸惑ったり、状況が掴めたとしたら逆に、
『あなたを放って一人で逃げられないよ!』
的なことを言いだすところかもしれないが、すでにこっちの世界に足を踏み入れている玖島楓恋には、今は足手まといになるであろう自分がいない方がいいという判断が咄嗟にできた。
が、現実は甘くなかった。貴志騨一成とぶつかって地面に降り立ったもう一方がすさまじい速さで奔り、逃げようとした玖島楓恋に飛び掛かろうとする。
「ガアッ!」
それを
だが、それは<罠>だった。玖島楓恋に飛び掛かろうとしたそれの、
彼女を狙えば隙ができるだろうという。
そしてそれは見事にハマってしまった。玖島楓恋を守ることを優先した
「ガァアァァアアァアァッッ!!」
恐ろしい悲鳴を上げた
「貴志騨くんっ!?」
逃げようとした玖島楓恋だったが、さすがに尋常じゃない様子にペダルを扱ぐ足が止まり、振り向いてしまったのだった。
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