黒い獣と黒い獣
闇の中に浮かぶ赤い四つの光を見た瞬間、
本能的に危険を察知したのだろう。しかし、貴志騨一成自身はそれを無視するかのように平然としていた。
だがその時、ポケットの中で何かが「ブーン」と振動する。
スマホだった。着信があったのだ。すると貴志騨一成は目の前にある得体の知れない何かから目を逸らし、スマホを見た。
と、当然のように<何か>が迫ってくる。にも拘わらず貴志騨一成は気にも留めない。
スマホの画面に<楓恋>と表示されているのを確認してから、面倒臭そうに頭を振って、自身に迫ってくる<何か>に叩きつけた。
そう。躱すでもなく逃げるでもなく、だ。
ごきゃっ!!
そんな音と共に、激しくそれらはぶつかり合った。
「……」
それでも貴志騨一成は一歩も引かず踏みとどまり、逆に凄まじい速度で迫ってきた<何か>の方は後ろに跳び退った。
街灯の下にそれは着地したことで、辛うじて姿が分かるようになる。
黒い獣だった。獣のように見える何かだった。
犬のようでもあるが、それにしては大きい。大型犬として有名なグレートデーンやセントバーナードよりも確実に大きく、おそらく大柄な雄ライオン並みの巨躯だった。
墨を煮詰めたかのような漆黒の体。頭から延びる長い触角らしきものは鞭の如くしなり、異様さをさらに際立たせている。
<人食いの黒い獣>の代表格の一つだ。それが同じく<人食いの黒い獣>とでも言うべき
もっとも、人間を好んで食う
実を言うと、化生の格では
おそらく、普通の
なのに、自分が勝てる筈のない相手にもまるで怯む様子もなく、貴志騨一成は
「あ、貴志騨くん?」
聞こえてきたのは、
「は…い」
明らかに嬉しそうな表情になった貴志騨一成が応えると、
「実は晩ごはんを作りすぎちゃって、今から持っていこうと思ってるの。いいかな?」
と玖島楓恋が明るく問い掛けた。
だが、その声は、明らかにスマホのスピーカーからだけ聞こえてきたのではなかった。
「!」
それに気付いた貴志騨一成が視線を向けるのと、
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