ドラゴン使い

新伊崎千晶にいざきちあきは、<ドラゴン使い>である。通常は決して知ることのないドラゴンの真名まなを見抜くことができ、それによって使役することができるという、魔法使いの中でも特異な才能の持ち主だった。


それが故に赤島出姫織あかしまできおりと共に魔法学校に才能を見出されたのだが、そこでの非人道的な儀式を知った赤島出姫織が自らと新伊崎千晶の魔力そのものを封印。魔法使いとしての価値を捨てて人間としての暮らしに戻っていたものの、クォ=ヨ=ムイと関わってしまったのが運の尽き。再び魔法使いとしての力を取り戻してしまって、こうして<この世ならざる者>との関わりも取り戻してしまったのである。


しかし、そのことにも既に慣れた新伊崎千晶にとっては、ただハエやカがまとわりついてくる程度の煩わしいことでしかなく、恐れる必要さえなかった。


なにしろ、化生の中でも私達<超越者>に次ぐ上位の存在の一つであるドラゴンさえ使役できるこいつは、この程度の化生など、犬猫を手懐けるよりも容易く服従させることができるのだから。


故にこの時も、


『待て。余計なことをするな…!』


と黒い獣に命じた。


すると、赤い四つの目を持つ黒い獣は、


『ヴヴヴ……』


などと唸りつつ抵抗する様子も見せたものの、結局は新伊崎千晶に一睨みで屈服させられ、


『元いたところへ帰れ……!』


と命じられ、渋々ながら踵を返して姿を消したのだった。


その黒い獣は、<黒迅の牙獣トゥルケイネルォ>は、非常に獰猛で強力な人食いの怪物だったのである。新伊崎千晶が支配下に置いた上で追い返さなければ少なくない犠牲者が出ていた可能性もある。


なにしろこいつ一匹で地球上のすべての軍隊を退けられるほどの力があるからな。


新伊崎千晶のドラゴン使いとしての力に引き寄せられてその近くに現れたのだろう。他の場所に現れていたら一瞬で周囲の人間達が食い殺されていた可能性が高い。


人間達は、まるで気付くこともないうちにとんでもない危険に曝された上で、まるで気付くこともないうちに命を救われていたのだ。


実は、こういうことも珍しくない。


もしかしたら、呑気にパソコンやスマホの画面を見ている奴らの背後に、この手の怪物が潜んでいたりするかもしれないぞ。


食い殺された痕跡が残れば他人に気にしてもらえるかもしれないが、中にはその存在の痕跡そのものを消し去ってしまう奴もいるからな。


行方不明になったことさえ誰にも気付かれず、最初からいなかったことにされる場合もあるのだ。


そう、ンブルニュミハによってデータに変換され鏡の表面へと焼き付けられ、存在したという事実さえ抹消された、石脇佑香いしわきゆうかのようにな。


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