制圧
しかし今回のゲベルクライヒナも、大した奴じゃないな。この程度の小さな刃しか作れんとは。
憑いてからまだ日が浅いというのもあるだろうし、何より殺意の質が悪い。山下沙奈のそれとは比べるべくもない粗悪なものだ。だから大して成長できない。
とは言え、普通の人間が相手ならこれでも十分すぎるほどに危険な存在だ。
普通の人間が相手なら。
だが、今、こいつのすぐ傍にいたのは、
「……」
<見えない壁>を張り、男の突進を制する。
瞬間、男の方も自分の前にいるのが普通の人間ではないと察した。
「ケェェエエェェエェーッッ!!」
鳥のような叫び声を上げつつ、およそ人間では不可能な跳躍で跳び退り、間合いを取った。
「え…? え…?」
そこへ、
「おいそこ! 何をしてる!」
付近をパトロール中だった警官が駆け付け、声を上げた。
「やべっ!!」
男の仲間達は、警官の姿を見るなり蜘蛛の子を散らすように走り去る。仲間がナイフまで持ち出したことで自分まで巻き込まれると思ったのだろう。所詮はその程度の繋がりだな。
とは言え、当の、指先をナイフ化させた男は既にゲベルクライヒナの意識に支配されていて、人間としての判断はできない状態だった。
突然現れて邪魔をしようとしている
が、再び赤島出姫織が見えない壁を張り巡らせて阻んだ。
今度は男の顔面すぐ前に壁を張ったことでガンっと思い切りぶつかり、男は弾き返されて転倒した。
そのショックで人間としての意識が戻ったのだろう。指先のナイフは消え去り、普通の人間の手に戻っていた。
「お前! 何をしてる!!」
男がナイフで自分達にも斬りかかったように見えた警官達は、当然、それに応じた対処をする。
「ナイフを捨てろ! って、あれ……!?」
男の手からナイフを取り上げようとしたらそれがどこかにいってしまっていたことには戸惑いつつも、確かにナイフを手にしていたのは目にしたので、ナイフがないのはむしろ幸いと、そのまま男を押さえ付けた。
とは言え、凶器のナイフが見付からなければおそらく逮捕まではできないだろう。このまま警察署まで任意同行を求めて事情を聞いた上で釈放することにはなると思われる。
「君達、大丈夫だった?」
男を抑えつつ警官が左近瑞優星と赤島出姫織に問い掛けてくる。
「あ…あ、はい…」
何が何だかいまいち状況が掴めない左近瑞優星が戸惑っている後ろで、赤島出姫織がホッと胸を撫で下ろしていたのだった。
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