また一から
クォ=ヨ=ムイは続ける。
「私が何もしなくとも、お前達は勝手に滅んでいた。
そこにたまたま、ヤツが現れたのだ。だから私はお前達に生き延びる可能性を与えてやった。
このままヤツに皆殺しにされるか、僅かでも生き延びる者を出すかという形でな。
ヤツは、人間を見逃さない。最後の一人まで殺し尽くす。あれはそういう存在だ」
『つまり、これだけ生き残っただけでも感謝しろと…?』
「感謝? 何故感謝する必要がある? お前は台風や地震が大きな被害をもたらしたら感謝するのか?
まあ、感謝したいというのなら別に構わんがな」
『感謝は…しないでしょうね。僕もしません』
「なら、それで構わんではないか」
クォ=ヨ=ムイは平然と言ってのけた。それはやはり、人間とはまるで異なる精神構造の表れだっただろう。いや、そもそも<精神>と呼べるものであるのかどうかすら怪しいが。
いずれにせよ、クォ=ヨ=ムイの<目的>は果たされ、その関心は次へと移ったことを、彼も感じ取っていた。
生き残った人間達がどういう末路を辿ろうとも、もはやクォ=ヨ=ムイは毛ほども気にしないだろう。
しかし、人間という生き物は、とにかくしぶといということが、今なら彼にも分かる。
絶望していないのだ。
もちろん、絶望している人間も少なくない。けれど、そうでない人間も確かにいることが、そういう人間が発する<熱>が、彼の触角を撫でている。
『そうか……また一からやり直すことになるだけか……』
今の彼にはそれが分かる。そして、そういう人間を食らうことこそが本来の自分だということも察せられてしまった。
決して食らい尽くすことはしない。しないものの、そういう人間を食らうことが
だから、長く一緒にいることはできない。
早く綾乃達が自力で生きていけるようにして、立ち去らなければ。
設備も重要だが、それ以上に綾乃とアリーネの精神状態を改善しなければならない。今のままでは遠からず致命的な破綻を迎えるだろう。
もっとも、アリーネの方は心配ないかもしれない。彼女は職業軍人だ。危機的状況下であれば逆に自分を奮い立たせることができる。今は一時的に落ち込んでいるに過ぎない。
問題は綾乃の方だと思われる。
『どうすればいい? どうすれば彼女を励ますことができる?
僕が神河内錬治その人だと明かせばいいか? そうすれば少しでも気が楽になるか?
……いや、自分達を助ける代わりに<犬>になることを選択したと知れば、彼女はきっと自分を責める。
どうすれば……』
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