幽霊

錬治はこうして死んでしまったものの、本当に大変なのはこれからだった。


なにしろ、二百万倍に加速された自分達が動き回ったことで起こる途方もない大惨事を目の当たりにすることになるのは、残された綾乃達なのだから。


『ごめん。僕だけ先に楽になって……』


そうだ。錬治が大人として責任を取らなきゃいけないのは本来ならここから先だった。それなのに彼はこうして一人、楽になってしまった。


『……って、


え? どうして僕はこんなことを考えてられるんだ…? 死んだんじゃないのか?


そうだ。僕は確かに死んだ筈なのに、なぜかこうして考え事をしながら吉佐倉よざくらさん達のことを見てる』


「まさか……これが<幽霊>ってことなのか? 僕は幽霊になったのか……?」


理解できない状況に呆然としてる錬治に、


「まあ確かに、それがお前達人間の言う<幽霊>とかだとすれば、そうなんだろうな」


と声が掛けられた。


この声は、まさか……!?


「その『まさか』だよ。しばらくぶりだな。人間」


クォ=ヨ=ムイだった。クォ=ヨ=ムイが彼の後ろに立っていた。


「……僕を迎えに来たってことですか……?」


もしかしてそういうことなのかと思って問い掛けた彼を嘲笑うかのようにクォ=ヨ=ムイは唇を歪ませた。


「思い上がるなよ、人間。貴様にそんな価値がある訳がなかろう。貴様は私にとってただの暇潰しの道具に過ぎん」


その言葉に、錬治は思っていたことを口にせずにいられなかった。


「暇潰し……暇潰しであんな怪物を送り込んでそれを僕達に始末させたんですか……?」


『そうだ。考えてみたら最初から出来過ぎてたんだ。あんな怪物が都合よく現れてそれを退治して世界を救う為に自分が選ばれるなんて。全部仕組まれてたって考える方が自然だと思う』


けれど、そんな彼の指摘を、クォ=ヨ=ムイは、


「くかか…!」


と嘲笑う。


「私が奴を送り込んだとか思っているのなら、それはとんだ見当違いというものだ。奴がこの地球に現れたのは本当にただの偶然に過ぎん。


……いや、完全な偶然という訳でもないか。私がいるからこそ奴も引き寄せられたのだろうからな。しかし、私が仕組んだというのは貴様の見込み違いだとだけは言っておいてやる」


「今さらそれを信じろと……?」


「貴様が信じようと信じまいと事実は変わらん。


まあそれは別に構わんが、お前が今、どういう状態か教えておいてやる。お前は今、<量子情報体>という存在だ」


「量子情報体…?」


「ああ、量子テレポートによって情報としてこの世界に刻まれた、いわばお前のコピーだな。これは別にオカルトでもなんでもなく、必ず生じてることだ」


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