エレーンさん
『って、日本のアニメもすごいけど、ドイツ語と日本語と英語を自在に使い分けて、日本人のみほちゃんとフィリピン人のシェリーちゃんとアニメ談議に花を咲かせるエレーンさんも地味にすごいな。彼女がいてくれて本当に助かった。
でないと、僕と
しばらく寝てふと目が覚めた時に、年少組三人に綾乃も加わって楽しそうに話をしている様子に気付き、錬治がそんなことを考えていると、エレーンは、
「私、子供好きですから…」
アリーネよりもしっかりした発音で日本語を話して綾乃とそんなやり取りをしていた。
錬治はそんな彼女に、頭が下がる思いだった。
『いや、ホントにこれは大変な力だぞ。
確かに怪物を淡々と始末してくれるアリーネさんや僕の介護をしてくれる吉佐倉さんとは違うけど、大事な役目なんじゃないかな……』
そんなことを考えてしまう。彼女がいれば、安心してみほちゃんやシェリーを任せられると感じたのだ。
エレーンは言う。
「私は日本のアニメに憧れていました。日本のアニメにはとてもたくさんの<世界>があります。他の国のアニメとは比較にならないほど、多種多様でバリエーションに富んだ世界です。その自由で躍進的な発想に私は大きな可能性を見ました。そこで見たのと同じ光景を見ることになるとは思いませんでした」
そこまで語ったところで、エレーンは表情を曇らせた。
「…ですが、アニメの中で見た光景が現実になると、それはとても残酷で恐ろしくて悲しいものだというのが改めて分かりました。そういうものは、アニメの中だからこそ、ただ興奮するだけで済んでいたのですね」
とてもただの高校生とは思えないしっかりとしたその意見に、錬治は素直に感心させられていた。
分かり切ったことではあるけど、アニメと現実は違う。アニメの中ではどんな大災害が起こったって実際には誰も死なない。でも現実でそれが起これば多くの人が命を落とすことだってある。
錬治も、自分が癌に罹って死に直面してようやく、<死に至る病>っていうものが現実に存在するんだっていうのを実感できた気がしていた。それまではどこか遠いところでのことのような気もしていたからだった。
それがただの現実逃避でしかないことにさえ気付かずに。
『まったく。残酷で凄惨な現実を突き付けられてようやくそれが理解できるとか、本当に情けない……
でもそんな泣き言を並べてる時間もない。状況は次々と進んでるんだ。
今、僕がやらないといけないのは、体を休めて次に備えること。いつまで続けられるかはまったく分からないけど、もし僕がダメになってもアリーネさんがいれば大丈夫だ。そう思えばまだ気も楽になるかな……
頑張れ。頑張るんだ。今はまだ終わる時じゃないと思う。苦しいのは確かでも、まだ僕の体は動く。こうして休んで回復さえさせればね』
そうやって自分を鼓舞するものの、次の瞬間には、
『その<回復>が希望にならないこともあるというのも、こうなってみて初めて知ったな……』
とも思ってしまうのだった。
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