五人目

昼食を終えてベンチに横になってた錬治は、半ば朦朧とした意識の中で、濡らしたハンカチで汗を拭いてくれてた綾乃や、エレーンと楽しそうに話をしてるみほちゃんの様子を何となく見ていた。


ドイツの高校に通う日本のアニメ大好きなオタク女子っていうエレーンは、女児向けアニメにも詳しいみたいで、十何年だかシリーズが続いてる、日曜朝の人気女児向けアニメの話でみほちゃんと話が弾んでるみたいだった。


こんな訳分からない状況に巻き込まれたみほちゃんとそうやって話をしてもらえるだけで、錬治はすごくありがたかった。


『ハーレムとかそんなの、どうでもいいよ……だいたい、こんな体調でそんな気分になれる訳ないだろう……?』


あのクォ=ヨ=ムイは、人間じゃないから人間のこういう苦しみみたいのが理解できないんだろうなってしみじみ思う。


人間にはできないことができて、たぶん死ななくて、そんな存在の<恐ろしさ>ってやつも思い知らされた気がする。


『こんな風になる前にそれを実感できてたら、人間社会の些細なあれこれなんて気にならないようになってたかな……


まったく……大事なことほど手遅れになってから気付くものってことなのか……』


そんなことを考えながらうとうとし始めた頃、アリーネが戻ってきた。また女の子を連れて。


「フィリピンの小学校に通う。シェリーデス。学校で襲われてたところを助けまシた。でもやっぱりショックを受けてて説得に手間取り、二十二体しか倒せませんでシた」


自慢げにそう紹介する。


アリーネの後ろに隠れるように縋りついてたその子は、小学校の高学年くらいの褐色少女だった。


『……って、ハーレムとか言いながら、半数以上が僕が手を出したらその時点でアウトな女の子ばっかりじゃないか…!』


なんてことを心の中でツッコめるくらいには楽になってきたようだ。


『まあそれはさておいて、これでアリーネさんが倒したのは四十三体か。あと五十七体。


僕も頑張らなくちゃ。折れた心もちょっとは回復した気がする……』


シェリーも、日本のアニメに興味があったのか、エレーンが英語で話しかけると、みほちゃんと一緒に三人でベンチに座って話し始めた。英語で話してるのになんでアニメの話をしてるか分かったかと言えば、分かりやすすぎるキャラの名前がいくつも出てきたからだ。


しかも即座に日本語に切り替えて、みほちゃんにも説明する。


『…って言うか、すごいな、日本のアニメ。ドイツ人の女の子とフィリピン人の女の子とで共通の話題で盛り上がれるなんて……


だけどそうやって年少組三人でまとまってもらえてればこっちとしても助かるよ……』


微笑ましい光景に少しだけ癒された気分になりながら、錬治は眠りに落ちていったのだった。


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