説得も説明も
助けを求めようにも誰も動かない状況に、大学生くらいの女性は、いつでも逃げ出せるような体勢を取りつつ、彼らと向き合っていた。
「どういうことなのか、説明してもらえるんですか…?」
強張った声で問い掛ける彼女に、彼はなるべく優しい感じになるように努めて話し掛けた。
「説明も何も、見ての通りと言った方がいいかな。僕達以外の人って言うか、世界そのものが止まってるように見える状態ってことなんだ」
「…時間が止まってるってことですか?」
「正確には止まってる訳じゃないらしい。逆に僕達が、二百万倍っていうスピードで動いてるから、他が止まって見えるだけだってことだと思う」
「二百万倍…? 何ですかそれ? SFですか? それとも何かのトリックですか? 催眠術…とは違うのかな?」
「正直、僕も巻き込まれたクチだから完全には理解できてないと思うけど、たぶん現実なんじゃないかな。SFでもトリックでも催眠術でもない」
「…確かにそうみたいですけど……
でもさっきその人、<ハーレム>とか言ってましたよね。なんですかそれは?」
「いや、それは彼女が勝手に言ってることで、僕はそんなつもりないから」
「訳分かんない。そんなちっちゃな子まで連れて、何やってるんです? いい大人が。恥ずかしくないんですか?」
「そう言われるとぐうの音も出ないな。だけどさっきも言ったとおり、僕も巻き込まれただけなんだ。この子、<みほちゃん>も」
彼がそこまで言った時、それまでは黙って聞いてたクォ=ヨ=ムイが痺れを切らしたかのように口を挟んできた。
「ああもう面倒臭い! ごちゃごちゃ言おうがどうしようが、お前はもうこちら側に来てしまったんだ。泣こうが喚こうが誰にも聞こえん!」
そう言って今度は彼女を指差しながら彼を見て、
「いいからお前、この女を手籠めにしてしまえ! その方が手っ取り早い! 心配するな、私も手伝ってやる。なに、感度を百倍くらいまで上げてやればイチコロだ。ひいひい泣いて悦ぶぞ!」
とか何とか。
「だーっ!! だから僕はそんな気ないですって! みほちゃんの前でやめてください!」
「てごめって、なに?」
って、みほちゃんがタコ焼きを食べながら訊いてくる。
『ホントにもう勘弁して……!』
彼はもう泣きそうな気分になっていた。だから、
「ごめん! 僕達は先を急ぐから。二百万秒くらいこの状態が続くらしいけど、それが終わったら元に戻るって」
もう説得も説明も諦めて、彼はその大学生くらいの女性を置いて次の場所に移動しようと思った。けれど彼女は、
「二百万秒って…ほぼほぼ二十四日間じゃないですか!? その間ずっとこんな状態ってことですか!?」
と。
『計算早いな、この子…!』
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