素でドン引き

「…え? なに? なんなのこれ?」


そんな風に声を上げながら、大学生くらいの、やや明るめのヘアカラーで髪を染めてるっぽいいかにも<今風な女性>が、全く動かない自分の周囲の様子に戸惑っているのが分かった。


「はっはっは、気にしても無駄だ。お前と私達以外は二百万分の一の速度で動いてる状態だからな」


などと、およそ相手に状況を理解させる気のない説明をクォ=ヨ=ムイがする。


「な、なんなんですか、あなた達は…!?」


と、女性は露骨に不審がった怪訝そうな様子で警戒していた。


『そうだよな。それが普通の反応だよな』


彼はそんな風に思ってしまう。


「まったく鈍い奴だな。見ただけで分からんか?」


とか言うクォ=ヨ=ムイを遮って彼は、


「戸惑うのは当然だと思うけど、ごめん、取り敢えずは今の状況をまず認識してほしい。僕達以外は実際に殆ど動いてないように見えるってことを」


って、なるべく優しい感じになるように話し掛けていた。


しかしやはり、見知らぬ中年男に意味の分からないことを言われて「はいそうですか」って言う人間は滅多にいない。


「ホントなんなんですか? 警察呼びますよ…!!」


とスマホを取り出し操作する。だけどそれが無駄なのは彼にももう分かっていた。


「え? なんで?」


スマホがうんともすんとも言わず、女性は焦った様子になる。


正確には、スマホが送った信号を受信してる側が彼女に比べて二百万分の一のスピードでしか動いていないから、何も反応してないようにしか見えないだけなのだが。


ここまでくるとさすがにその女性も不安になってきたらしく、怯えた様子も見え始めた。


それにクォ=ヨ=ムイが追い打ちをかける。


「だからこいつも言っとるだろうが。状況を理解しろと。お前はお前が知ってる<普通>とは切り離されてしまったのだ。無事に<普通>に戻りたいなら、四の五の言わずに私達に従え。


こいつがこれからお前の<主人>だ。お前は晴れてこいつの<ハーレム>の一員に選ばれたんだよ」


と。


それに対して彼は、


「だから話をややこしくしないでください! 僕はそんなつもりありませんから!!」


と声を上げる。


『あ~もう、まったく! この神様は…!』


苛立つ彼の姿を見ていた女性の視線。


「……」


<マジで素でドン引きする姿>とは、まさにこういうのを言うのだろう。幸か不幸かそれを自分の目で見る羽目になった彼は、


「この人の言うことは聞かなくていいから。でも分かると思う。自分が今、普通じゃないことくらいは。取り敢えずそのことだけは理解してもらって、落ち着いて話を聞いてほしいんだ」


と、とにかく低姿勢を貫かせてもらったのだった。


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