あんまりメソメソすると
『なんなら、犯して殺してもいいぞ?』
その言葉に、彼は、
『このクォ=ヨ=ムイとかいう<自称神様>、こんな小さな子供の前で何言ってんだ…!』
と憤った。
しかし、こうも思う。
『不安そうな小さい子を放っておいて痴女もどきにいちいち腹を立ててる僕もあまり褒められたものじゃない気がする。
それにさっきから、頭が混乱してるせいか、自分のことを<僕>とか<俺>とか、まったくてんでバラバラだ……!』
なんてことにようやく気が付くくらいには落ち着いてきたらしい。
「パパ…ママ……パパ! ママ…!」
彼がようやく落ち着きつつある一方で、大人同士が何か言い合いしてるのが怖いのか、女の子は自分の両親に必死に縋るように声を掛けていた。
しかし両親が反応する筈もなく、声が明らかに涙声になっていく。
するとクォ=ヨ=ムイが、
「おいおい、サービスで人間に対しては少々触れてもダメージがないようにはしておいてやったが、あんまり乱暴にするとその限りじゃないぞ。お前、自分の両親をミンチにでもする気か?」
と嘲笑うように言う。
『…って、そうか!
あの女の子も僕と同じように動けてるってことは、二百万倍に加速されて、しかもそれに耐えられるようになってるんだ。さっき僕が怪物に触れた時のように、本当ならあんな感じで殆ど抵抗なく人間の体なんて引き裂かれてしまう筈だ。
たとえ小さな子供の力でも……!』
彼はそれに気付き、女の子になるべく優しい感じになるように意識して声を掛けた。
「あ、あのね、お父さんとお母さんは今、ちょっと病気で動けなくなってるそうなんだ。だからそっとしておいてあげてね…!」
「え? びょーき? パパとママ?」
すると、女の子は不安そうに彼を見て慌てて両親から手を放した。けれどその顔がみるみるくしゃくしゃになって、
「…やだ…やだぁ~……っ! パパ……ママぁ~!」
と泣き出してしまう。
『こ…困った…! こういう場合、どうすりゃいいんだ?』
四十直前と言っても子供どころか結婚もまだの彼には、どうしていいのかまるで分らなくてパニックになってしまう。
『抱き上げてよしよしすればいいのかな……!?
いやいや! 今時、ロクに名前も知らない他人の子にそんなことしたら完全に<事案>だろ……!』
そんな風に混乱する彼を尻目にクォ=ヨ=ムイが女の子につかつかと近付いていって、がしっと頭を鷲掴みにして、
「ダマれ。あんまりメソメソすると頭からバリバリ喰うぞ…!」
『って、それはただの脅しだ~っ!!』
しかし、女の子はそれがあまりにも怖かったのか、
「ひっ…!」
と息を詰まらせて固まってしまった。
『確かに静かにはなったけど、これは違う。絶対に違う…!』
彼がそう思った通り、女の子の足を液体が伝って、足元にみるみる水たまりが。
「おりょ? なんだお前、漏らしたのか」
『って、そりゃそうだろーっっ!!』
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