共依存
猟奇的な事件かと思えば、実は過酷な世界を健気に生き抜く人間共のハートフルな話だったか。
つまらん。
だがまあいい。当面の間はこいつらも私の<同居人>だ。精々よろしくやってもらうさ。
私は、男と小娘の様子をさらに確認するため、廊下へと出た。
どうやらあの物置のドアが歪んでいて完全には閉まらないらしく、常に少し開いていたのが助かった。
見ると、今日は、小娘の腕は拘束されておらず、車椅子に乗せられて最初の部屋に向かっているところだった。
落ち着いている時はこんな感じなのかもしれんな。小娘がパニックを起こした時だけ拘束するということだろうか。
あの調子で暴れると、余計な怪我をしそうだしな。
その二人の後をつけ、部屋に入るところまで見届ける。
一緒に入らなかったのは、殺虫剤の臭いがしていたからだ。
おそらく、私を見付けたあの後で、殺虫剤を噴霧したのだろう。
まあ当然だな。
だから私は部屋には入らない。残留した殺虫剤の濃度が十分に下がるまでは危険すぎる。
しかし、こうやって一部を垣間見ているだけでも男と小娘が共依存の関係にあることが窺えるな。
両手足を失い、男に依存しなければ生きていけない小娘はもとより、パニックを起こす予兆が見えたとなれば両腕を拘束し、ただ床に転がしておくなど、ぞんざいな扱いをしているように見える男の方も、小娘がパニックを起こしている時には、
「まったくうるさいな……」
などと冷淡な振る舞いをしながらも、その実、意識は常に小娘に向けている様子が察せられた。
その一方では、ゴキブリやネズミが現れると容赦なく<始末>する。自分の中で渦巻く攻撃性をぶつける相手を欲しているというのもあるのかもしれん。
男にしてみても、他にほとんど人間がいないこの環境では、小娘の存在が精神的な拠り所になっていると思われる。
実に見事な依存状態だ。
さらに数日後、この屋敷に<来訪者>があった。
ベルが鳴らされ、男が玄関を開けると、男二人、女二人の四人組が屋敷の中に入ってきた。いずれもしかめ面をした中年だった。
その時、四人組が入ってきた玄関の扉の向こうに見えたのは<外>ではなく、ロッカー室と思われるロッカーが並んだ部屋だった。
おそらく、本当の<出入り口>はそのロッカー室のさらに向こうなのだろう。
外の冷気を中に入れないようにする為の構造だと思われる。
そしてロッカー室は、宇宙服のような防寒装備を脱着する為の部屋なのだろうな。
男女四人組はほとんど口をきくこともなくそれぞれ別れ、部屋に入っていった。その部屋の一つが、あの配電室だ。
しばらく中で何か作業をしている気配があった後、再び四人が集まって手にしたタブレットを操作し、それを男に提示しながら、
「問題ありません…」
と短く告げ、やはり玄関を通って出ていったのだった。
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