代償

屋敷を訪れた四人組は、どうやら設備を維持管理する技術者のようだな。それが数日に一度の割合で点検とメンテナンスに訪れる感じか。


なるほど、文明そのものも、衰退はしているものの完全には失われていないか、細々とはやれているようだ。


もっとも、発展が望めないのであれば先細って緩慢な死を迎えるだけかも知れんがな。


まあその辺は私には関係ない話ではある。


どうせ長くても二百日程度しか生きられん体だ。


だから男と小娘のことだけを見る。


男は、どうやら自分で料理をするようだ。しかも、<キュイジーヌ>という言葉がぴったりくるような、本格的な料理だった。


この退屈極まりない世界では、食事は最大の楽しみの一つだろう。


だからこそ、男は、自らが納得できるような料理を自分の手で作ろうとするのだろうな。


食材については、取り敢えず不足はない程度には供給されているらしい。


ただし、匂いから判断するに、本来の材料ではない、代替品が数多く使われているようだが。


特に肉は、本来の肉の匂いがしない。ある程度はそれらしい匂いもしているが、どうも、大豆らしき匂いに肉のような匂いが僅かに交じっている程度だな。


これはおそらく、大豆などから抽出した植物性のたんぱく質を肉に似せて成型し、肉のフレーバーを混ぜただけの<合成肉>とでも言うべきものなのだろう。


この環境では、牛や豚などの食用肉を取るための家畜を飼育するのも途方もないエネルギーを必要とするだろう。となると、日常的に口にできるような価格には収まらんに違いない。


なにしろ日守こよみがいた地球であっても、食用肉を生産するのに、本来、人間がそのまま食う分の数倍の作物が必要になるそうだ。


十分な作物が収穫できるからこそ成立しているものの、本来、食用肉というのは非常に高コストなのである。


故にこの限られた空間を家畜に割く余裕はないだろうな。なので、たまに口にできる程度だと推測できる。私がこいつと遭遇した時がまさにその<たま>だった感じか。


それでも男は美味い食事にありつく為に、日頃から工夫を凝らしているのだろう。


涙ぐましい努力だな。


加えて、男は、普段は延々と本を読んでいるようだが、気分転換にダーツの的を使ってナイフやフォークを投げつけていたりもする。


他に娯楽らしい娯楽もないことで極めて集中し、結果としてナイフやフォークを投げる腕前が磨かれたのだろう。


そんな男は、


「ああ、面倒臭い……」


などと悪態を吐きながらも小娘に自らが作った食事を食べさせていた。


小娘はそれを感謝しつつも負い目に感じてもいるようだな。


なんで外に出ようとしたかは知らんが、代償が大きすぎたな。


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