メリークリスマス

「はっはっは! メリークリスマ~ス!」


月城こよみがそう音頭を取った瞬間、パンパンパン!と破裂音がした。クラッカーだ。飛び出した細かい紙テープが巻き散らされ、私の頭にもかかる。


「…あのなあ……!」


と口にした私だったが、


「ごめんなさい」


などと隣に座った山下沙奈に縋るような目で言われては怒る気も失せた。


それどころか、こいつが嬉しそうにパーティーの準備をしていたのを見て、私も悪い気はしなかったのだ。


だからまあ。それはそれで良かったということにしておこう。


学校の方はもう冬休みに入っているため、少々夜更かししても大丈夫だということで、その日は夜まで私の家は賑やかだった。


「楽しかったですね」


パーティーの後、月城こよみらも多少片付けてはいったが、最終的には山下沙奈が片付けをすることになる。しかしこいつは、それすら嬉しそうに笑顔で事に当たっていた。


まったく、どこまでお人好しなのやら。


……いや、少し違うか。単純に本当に嬉しいのだろう。こうやって心置きなくパーティーを楽しめるということが。


かつてのこいつの境遇では、そんなものは望むべくもなかったからな。


なにしろ、<クリスマスプレゼント>と称して男共に体を弄ばれたりもしたのだ。そうして支払われた金も母親にすべて巻き上げられ、こいつにはケーキの一切れさえ与えられることはなかった。


それを思えば、パーティーの片付けさえ楽しいんだろう。


そうして片付けも済んで落ち着くと、今度は私と山下沙奈の二人きりのパーティーが始まった。


シャンパンを模した炭酸入りのソフトドリンクで、


「乾杯…」


とグラスを掲げ、私とだけ楽しみたくて用意したとっておきのケーキを改めて二人で食べた。


ブランデーが使われた、少々大人びた味わいのケーキだ。


「なんか、これだけで酔いそうな気がしますね」


などと、頬を赤らめながら言う。


アルコール分など飛んでいる筈なので酔ったりするわけもないが、今のこの雰囲気に酔っているのだろう。


こちらについての片付けは明日以降ということでそのままにされていたクリスマスツリーのイルミネーションを見詰める瞳も、潤んでいるように見える。


「……」


そんな山下沙奈をそっと抱き寄せると、こいつもまた、私に頭を預けるように体を寄せてきた。


そうして互いのぬくもりを確かめた後、どちらともなく唇をゆるりと重ねる。


こいつがもう少し大人で、余計なトラウマを抱えていなければこのまま最後までいってもよかったのだが、さすがに今はまだそれは早い。


だからその日は、こうして唇の感触を確かめるだけで済ませたのだった。


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