紫崎麗美阿 その3

えてしてそういうことをしている本人は自分では気付かないものだが、家庭環境に問題があるからといって他人を傷付けていい訳ではない。それに、そんなことをすれば結局、自らに<報い>という形で返ってくる。


それは、紫崎麗美阿しざきれみあも例外ではなかった。


彼女の場合は、『上辺でしか他人と関われない』という報いだ。その場のノリが合う相手、利害が一致する相手と、ノリや利害が一致する範囲内でしか付き合えないという報いである。


だから本当に信頼できる相手、心を許せる相手など一人もいなかった。顔を合わせば楽しく会話もするが、お互いに相手がいないところではそれぞれ陰口を言い合ったりもしていた。


そういう意味では、一見しただけなら明るくてノリが良く、それなりに友達がいそうな彼女にも、本当の意味で<友達>と言える人間はいなかった。彼女は本質的にはいつも孤独だった。


そんな彼女は、同じ中学に通うある女子生徒を目の仇にしていた。


直接何か因縁がある訳ではないのだが、とにかく目障りだったのだ。きっかけは、いつもつるんでいる女子生徒らとトイレの中で、


「六組のサナコって、サセコのクセにぶっちゃって何様って感じよね」


「そうそう、『私はこんなに可哀想な女の子なんです~』アピールがウザいウザい。どうせ自分も楽しんでたんでしょ?」


「でも男子ってそういうのを真に受けるんだから、ほんっとバカだよね~」


などという他愛ないおしゃべりを楽しんでいた時だった。するとたまたまその時一緒にトイレにいた二年生の女子生徒に、


「あんたら、本当に何も分かってないんだね。そういうのが自分をクズに変えていくんだってことも…」


と言われたことだった。それは、本当に何気ない、深い意味もないただのお節介だったのだろう。それまではお互いにロクに名前も知らない、顔をたまに見かけるというだけの間柄だったのだ。


しかし麗美阿は、その女子生徒のことが許せなかった。


『何あいつ、偉そうに説教を垂れてくれちゃって……! 何様……!?』


と思った。だからその女子生徒についてあることないこと噂を流してやったのである。


だがそれは、ことごとくうまくいかなかった。


千晶ちあき、あなたがこんなこと言ってるっていう話があったんだけど?」


麗美阿が流した噂について、千晶と呼ばれたその女子生徒はそう訊かれても、


「知らない。言ってない」


ときっぱりと応えれば、


「だよね~」


と、麗美阿の流した噂を耳にした女子生徒も軽く受け流してしまっていた。


麗美阿は、それがまた許せなかった。自分が流した噂をこともなげに流してしまうのが許せなくて、更に噂を流した。今度の噂は、その千晶という女子生徒の父親が他の女性生徒と不倫をしているという噂であった。


すると今度は、相手の女子生徒はある企業グループの社長の娘であったことも手伝って、面白半分のネタとして広まりを見せたのだった。


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