魔法学校の学長
ドラゴン自身が持つ魔力により巻き戻しを阻害されていた私だったが、広田の一撃によりドラゴンの集中が乱れ、体を巻き戻すことができた。まさか広田に助けられることになろうとはな。
だが、相手がドラゴンともなれば広田の破壊衝動を向けるにはうってつけの相手だ。事実、広田は既に二発目を放つべく構えていたのだった。
再びミサイルが放たれるが、一発目でその危険性を理解したドラゴンは身を捻りそれを躱す。しかし、広田もそれは承知していたようだ。二発目のそれは、レーザー誘導式のミサイルだったのだ。
「甘い!」
広田がニヤリと笑いドラゴンの腹にポイントを向けミサイルを誘導した。急旋回したミサイルが再び自分を目掛けて飛んでくることに気付いたドラゴンは、ブレスでミサイルを迎撃する。ほうほう、いい勝負じゃないか。
三度ミサイルを放った広田を見て、ドラゴンも理解したようだ。こいつがミサイルを操っていることに。すると今度は広田を狙いブレスを放った。が、それは
新伊崎千晶も自らのドラゴンのブレスで攻撃するが、さすがに大きさが違い過ぎて通じない。
もっとも、本当は大きさなど関係ないのだがな。広田の攻撃を見ても分かるように、私が与えた力は、十分にドラゴンに通じる威力の攻撃を放つことができるのだ。ただ、それは本人のイメージに大きく左右される。『こんな小さな作り物のドラゴンの攻撃が通じる筈がない』と、新伊崎千晶が思い込んでしまっているのだ。
それでも、『防御なら辛うじて』と思っているのだろう。実際に辛うじて防ぐことはできていた。
さすがにドラゴンが相手となれば、どう倒すかという明確なビジョンを持たない今川では分が悪かった。活躍の機会が回ってきて良かったじゃないか広田。
「広田! 新伊崎千晶! こいつはお前達に任せるぞ!」
私がそう叫ぶと、新伊崎千晶は「ええ!?」と焦った表情を見せたが、逆に広田は「任せてください!」と活き活きした表情を見せていた。よかろう。存分に楽しむがいい。
「今川!
戸惑いながらも、
「あ、ああ!」
と応えた赤島出姫織が走り、それを守るように今川も走る。
私達は中庭を駆け抜け、城のごとき校舎へと辿り着いた。中ではさっそく、生徒共のお迎えだ。ただし、さっきまでのプリムラやレイレーネといった連中とは違い、<
放たれた魔法は小石が当たったほどの威力もなく、躱す必要すらなかった。
「どけぇ! 食うぞ貴様らぁ!!」
狂悦の笑みを浮かべ牙を剥いた私の姿を見た生徒共は次々と腰を抜かし、小便を漏らす者さえいた。
「ハハハハハハ!」
興が乗った私は、教師と思しき奴が放った死の呪文をそのまま噛み砕き、それを変換してドラゴンのブレスのように口から放射した。
あくまで最終的な効果は麻痺どまりの筈なのだが、威力が大きすぎて、廊下にいた生徒は薙ぎ倒され、教師は奥の壁まで弾き飛ばされ、床材はめくれ上がり天井は落ち、窓はことごとく粉砕された。
「ハハハハハ! アーハハハハハハハ!!」
高らかに笑いながら私は校舎内を走り壁を突き破り、最短距離で学長室とやらがあるであろう塔を目指した。
教師らしき奴らが二人立ちふさがったが、でかい雷撃をお見舞いしてやった。これも麻痺どまりの筈だが、『ギリギリ死ななかった』程度のようだ。
さらに別の奴には頭から鼻っ柱に突っ込み、顔の骨を粉砕してやった。これは単純に物理的に衝突した形だったので危うく殺しかけた。それでも死なない程度には加減したつもりだったのだがな。
なおも立ちふさがる教師の頭を鷲掴みにして叩き付けて粉砕した(もちろん死なないようには保護した上でだが)壁の向こうに、螺旋階段があった。学長室とやらがあるという塔の階段だ。
「あそこだ! あの部屋が学長室だよ!」
赤島出姫織が指さしたそれは、階段を上り切ったところにある扉だった。
「そうか分かった! 面倒臭いから直接行くぞぉ!!」
私は赤島出姫織を脇に抱え床を蹴り、一気に跳び上がる。
「今川ぁ! そこを抑えとけぇ!!」
今川にそう命じ跳び上がった私と赤島出姫織の体は音速を超え、衝撃波が塔の内部を叩いた。別に退路を確保する必要もなかったのだが、気分だ気分。赤島出姫織だけ連れて行けばよいのだからな。
悲鳴を上げる暇すらなく扉を破壊し侵入した学長室に飛び込まされた赤島出姫織は、毛足の長い絨毯が敷かれた床にへなへなと座り込んでいた。まったく情けない奴だ。
「ふむ……」
代わりに学長室の中を見渡した私だったが、そこは無人だった。学長とやらの姿はない。まあいい。とっとと封印の石とやらを探し出そう。
が、そう思った私の胸から、血まみれの剣が生えていた。
「何ぃ…?」
気配は感じなかった。力も感じなかった。にも拘らず何者かが私を剣で刺し貫いたのだ。しかもこいつ、呪いの剣だ。巻き戻しが阻害され、私はその場に膝をついた。
「く……?」
体に力が入らん。
「…っがっ…!?」
床に手を着くと、今度は両手にナイフが突き立てられ床に縫い止められた。同じように両脚にもナイフが突き立てられ、床に固定される。それらも同じように呪いが掛けられたナイフだった。巻き戻すことも抜くこともできない。
「いいザマだな。クォ=ヨ=ムイ」
そんな私を嘲笑う声が掛けられた。振り返った私の視線の先にいたのは……
「赤島出姫織…」
そう、それは、赤島出姫織だった。いや、厳密には<赤島出姫織だったもの>か。
それを見た瞬間、私は全てを察した。これは全て、私を誘い出す為に仕組まれたことだったのだ。まったく、手の込んだことをする。
「貴様が学長だな…?」
赤島出姫織の体で私を見下ろすそいつは、邪悪な笑みを貼り付かせていた。
「赤島出さんが魔法学校を辞めたいと言い出した時にはせっかくの才能を失うのは惜しいと思ったんですが、こうも上手くいくとは、彼女の我儘を許した甲斐があったというものです」
前にも言ったが、今の私は、丁寧に封じられたものまで気付くほど本気でもないし集中している訳でもない。だから、念入りに隠れていたこいつの存在にも気付かなかったのだ。それにしても、私をおびき出す程度のことの為に何年も小娘の体の中に潜むとか、ご苦労なことだ。
「<魔女>ケェシェレヌルゥア……やはり貴様も生きていたか…」
<魔女>ケェシェレヌルゥアは、かつて私が、反逆した魔法使いに力を貸して滅ぼした惑星で、私を滅ぼす為に魔法を人間に与えそれを磨かせた張本人だった。まあその結果、私を滅ぼしうる才能を持つ魔法使いの発掘に固執するあまり人間共は、目的と手段をはき違え、
こいつは、人間でありながら私達<超越者>に限りなく近い存在であり、もう既に数億年は生きている筈だ。しかも自らの分身を基にして惑星に人間を増やし、せっせせっせと超越者に戦いを挑んでいるのである。本来、地球もその一つになる筈だったのが何かの手違いで魔法が否定され、科学が発達することになったのだ。姿形が似通っているのは、この星の人間も地球の人間も、元はと言えばこいつの分身が基になっているからだな。
ただし、こいつの外にもいろいろ人間の種を蒔いていた奴はいて、それらが混ざって今の地球人になったのだが。だからこいつは地球の人間のルーツの一つではあるが、全てではない。
だが、そんな余談はどうでもいい。私は今、こいつの仕掛けにまんまとハマってしまっているというのが実に業腹だ。だからこそその怒りが私に力を与えてくれるんだがなあ!!
「ぐぅおおおぉぉおおぉぉーっ、があっっ!!」
床に縫い止められた両手を一切の手加減なく刃で切り裂かれるままに引き寄せ拘束を外し、床に体を叩き付けるようにして胸を貫いている剣を押し出した。それを髪で掴んで放り捨て、両脚も手と同じようにわざと切り裂かせて抜き取った。
呪いの影響で若干巻き戻しには時間がかかりつつも、私は赤島出姫織の姿をしたケェシェレヌルゥアの前に立ったのだった。
「さあ! かかってこい! 魔女のガキがぁ!!」
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