屍魂
「先輩、邪魔されると敵わないから、隠密行動で行きましょう」
「うん、分かった。忍者みたいにやるんだね?」
とは言うものの、果たしてどの程度理解しているのかは怪しい玖島楓恋も一応は、私達の真似をするように身を潜めるような動きをしてくれた。
もちろん私と月城こよみの動きには全くついていけないのでかなりしっかり意識を逸らさせてやらないといけないし、実際のところ完全には誤魔化し切れていないんだが。
「え? 何だ今の?」
「なになに? なんなの?」
などという声が届いてくる。それでも追いかけてまでは来ないので、まあ成功と言っていいだろう。
さて、野次馬の対処もそれなりに上手くいったことだし、クエストの方だな。
次の校舎に移り、探索を続ける。
そちらは、さっきの校舎とは逆に普段の授業で使っている教室が殆どなので、立ち入っている生徒もおらず、ひっそりと静まり返っていた。おかげでゆっくりと探索が行えるが、
「誰もいない校舎って、独特の雰囲気があるよね」
と、玖島楓恋が呟くように言う。私達に話しかけているというよりは、自らに言い聞かせている感じか。
確かに、人があまり動かないことで空気がかき回されずに澱み、重みさえ感じさせる。人間はこれに不安を掻き立てられたりするらしいが、私はむしろ心地好ささえ感じるな。
私が存在を最初に生じたのも、このような場所だった気がする。
故に余計に心地好いのだろう。
それはさて置いて、教室を一つずつ覗き込み、何か手がかりがないか探す。
すると、教室の窓のレールの部分に、金属製の短い棒が挟まっていた。複数の細い金属パイプを組み合わせて作った、<差し棒>と呼ばれる、必要に合わせて伸ばしたり縮めたりして使うやつだ。
教師が授業で使ったものを忘れていったのだろうか。
別に役に立つとも思えんが、使わなくとも、
「先生の忘れ物かな? 後で職員室にでも届ければいいか」
とお人よしな月城こよみは呟きながらそれを手に取った。
だがその瞬間、窓に黒いシミのようなものが浮かび上がり、さらに月城こよみの手を掴もうとするかのように伸びてくる。
「!?」
咄嗟に跳び退くことで躱したものの、なおも<黒いシミ>は体を伸ばして掴みかかってくる。
「こいつ、
思わず声を上げた私に、月城こよみが問い掛けてくる。
「<しこん>って?」
「私達が今やらされている格好のゲームの<敵キャラ>だ。人間に対して恨みを抱いて死んだケモノの魂が寄り集まり変異したもので、人間に味方する<ケモ娘>を激しく憎んでるとかなんとかいう設定らしい」
「それはまた随分と分かりやすい敵だね」
「まあ、アプリゲームのキャラクターだからな。ただの暇潰しにやるようなものに変に凝ったのは出さんということなんだろう」
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