ミッション∞
「…で、なんでこんなことになってんのか、説明してもらえるのかな?」
夏休み真っただ中の自然科学部部室の中、憮然とした表情で私に尋ねてきた月城こよみに、私は、
「さあ?」
と肩をすくめてみせた。そんな私の前にいるのは、<タスマニアデビル少女>と化した月城こよみだ。
なぜ<タスマニアデビル>だと分かるかといえば、こいつの頭の上にそう表示されているからだ。
かくいう私は、<センザンコウ少女>だそうだが。まるで刃物のように鋭利に尖った鱗状の皮膚が鎧のように全身を覆っている。
「いったい、何がどうなってんの? あんたの悪ふざけかと思ったら知らないみたいだし」
じと~っとした視線で私を見詰めていた月城こよみが、「はあ…」と溜め息を吐く。
「失礼な。私がやるとしたらそんなキラキラもふもふした可愛らしい格好になどする訳がなかろう? 貴様など、ゴキブリそっくりの化生に変えてやる」
「ぐ…、確かに。あんたならマジでそうしそうだよね」
吊り上げた目で私を睨み付けつつそう言った月城こよみだったが、すぐさままた「はあ…」と情けない溜め息を吐いた。
まあもっとも、何となく予測はついている。こんな、人間の陽の欲望そのものを形にするような奴と言えば、エルディミアンくらいしかいない。
恐らくは、先日、月城こよみによって潰され食われた<仲間>の意趣返しだろう。これといって危険なものではなかったから、私としても油断していた。
しかも私は、この格好に心当たりがある。
<スーパーケモケモ大戦ブラックΣ>だ。
となればエルディミアンが誰の欲望を形にしたのかも察しが付くというものだ。
その時、私達の前に画面のようなものが浮かび上がり、そこに文字が記されていた。
『ミッション∞ 校舎内を探索し、ボスを倒せ』
「がーっ!! 何よこれは!? ふざけてんの!?」
と、毛皮を逆立て、月城こよみは怒り心頭である。
「まあ、気持ちは分かるが落ち着け。取り敢えず何をすればいいのかを提示してくれているのだ。ミッションをクリアすれば解放してもらえる可能性もある。せっかくだから乗ってみたらどうだ?」
「…こんな格好で校舎の中をうろつけっての? どんな拷問よ……」
確かに。いくら中二病患者だったと言えどこいつはもう既に熱に浮かされた状態からは冷めている。その状態でこの格好はなかなか辛い。
もっとも、実を言えば私の力でならこの程度のことはどうにでもなったのだがな。せっかくだし暇潰しとして付き合ってやろうではないか。
今は何となくそういう気分なのだ。
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