無私の献身

一般的に見れば、貴志騨一成きしだかずしげの振る舞いは完全にストーカーのそれだろう。しかし今のところは代田真登美しろたまとみにも玖島楓恋くしまかれんにもこれといって危害を加えようとする様子もないので、まあ放っておいておいいだろう。


それどころか、自主的に二人の護衛を買って出ている風でさえある。


ちなみに代田真登美には彼氏がいる。3年5組の金鉢令司かねはちれいしという奴だ。


普通ならここで、惚れた女に彼氏がいるということで感情を拗らせてってことになるんだろうが、貴志騨一成の面白いところは、それも含めて代田真登美を崇拝しているということだろう。


自分以外の誰かを好きだというその気持ちすら、奴にとっては尊いようなのだ。


だからよくありがちな嫉妬に狂ってトラブルを起こすということが今の時点ではなさそうなのだ。


意外なことに。


ただ、それは代田真登美があくまで<崇拝の対象>だからかも知れんがな。


対して、玖島楓恋については、代田真登美に対するそれとは若干違うというのも、よく観察してると分かってくる。代田真登美については画像を加工して<ケモキャラ>にしてしまわないにも拘わらず、玖島楓恋の方はその画像だけで既に百枚を大きく超えるものになっているのである。


どうやらこちらに対してはずっと俗っぽい感情なんだろう。


<恋愛感情>に近いものだという可能性が高い。


しかし幸いなことに、玖島楓恋には<彼氏>と呼べる者がいない。と言うか、そもそも本人がそういうことに目覚めていないようなのだ。


あんな、存在そのものがセクハラのような肉体をしているクセにな。


いや、むしろ、<恋>など既にはるかに超越して<愛>そのものになっているのかもしれん。玖島楓恋自身が。


なにしろその溢れる母性たるや、中学生でありながら、自宅の近所の子供達の母親代わりにすらなっているのである。


仕事で親の帰りが遅い子供らを家に集めて面倒を見ているのだ。それを始めたのは玖島楓恋の両親だが、そんな両親の愛情の結晶のような女だった。


ただ、愛情という点では完璧超人のようなこいつも、頭の出来という点ではやや残念であり、学校の成績は中の下といったところだった。真面目に授業を受けてはいるのだが、どうも理解が追いつかんらしい。


とは言え、あの外見と溢れる愛情があれば人生は困らんだろう。実際、近所の子供らにも好かれ、その親に感謝され、月謝などは取っていないにも拘らず食材や日用品の差し入れが後を絶たず、それだけでも日々の生活には困らない状態だという。


そんな玖島楓恋を、貴志騨一成は陰ながら見守っているという訳である。


つい先日も、玖島楓恋のあとをつけていた不審者に、


「おい!」


と声を掛け、追い払ったということもある。そしてそいつは後日、別の場所で別の女相手だが痴漢行為で逮捕されたりもしたのだ。


貴志騨一成が被害を未然に防いだということだな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る