ただの人間
「こ…ここは……?」
クォ=ヨ=ムイが次の人間へと転生してしまったことで、<怪物>から<少年A>に戻ったそいつが、間抜け面を晒しながら体を起こした。
「ふん。どうだ気分は? 超常の力に頼っておきながら、その超常の力によって完膚なきまでに叩きのめされるというのは爽快だったか?」
「……」
せっかくなので、一連の騒動の最中の記憶についてもしっかりと残して巻き戻しておいてやった。その上でついでに、私がどういう存在かも記憶として植え付けておいてやった。説明の手間を省くためだ。最初は混乱していたかもしれないが、自分のやらかした全てを思い出し、<少年A>は俯いて黙り込む。
「いかな超常の力を得ようとも、そこでもこうやってさらに上に立つ者はいるのだ。この私でさえ決して無敵ではない」
「……でも、悪いのは僕じゃない……! 悪いのはあいつらだ……!」
俯いたままで、<少年A>は絞り出すようにそう言った。
やれやれ。まだそんなことを言うか。私は呆れながら続ける。
「確かに、お前をそんな人間に育てたのは奴らだ。だが、お前はもう、そんな奴らに歯向かうだけの力は得たではないか。怒鳴り散らし、暴力をふるい、暴君のように振る舞って両親を従え、僅か六畳の小さな空間とは言え己の<城>を築くに至ったではないか。
なら、どうしていつまでも奴らの下にいるんだ? お前はもう、自分で自分の生き方を決められるようになったのではないのか? 奴らの言いなりにならなくても生きられるようになったのではないのか?
たとえそれが、<ニートという生き方>であってもな。
お前は自分でそれを選んだ。それは事実だ。
その事実を見ろ。お前は既に奴らに守られているだけの存在ではない。
<ニートという生き方>を貫くならそれもよし。お前をそんな人間に育てたツケを奴らにたっぷりと払わせてやれ。奴らも、お前を支配し、思うままに操ろうとした、れっきとした<加害者>だからな。力関係が逆転し、お前に対してしてきたことを、今、返されるようになっただけだ。そこに同情の余地など微塵もない。
だが、そこで他人を巻き込むのであれば、その<他人>も、己を守る為に抗うぞ? お前の思い通りにはなってくれん。お前が両親の思い通りにはならないと決めたのと同じことだ。他人は決して、お前の思い通りにはなってくれん。
それを忘れるな。
お前らは、一人では生きていけんひ弱でちっぽけなただの人間だ。しかも、少々超常の力を得ようとも、こちらの世界はこちらの世界でそれなりに世知辛いものだ。どの世界であってもそれは変わらん。自分にできることしかできんのだ。
今回のことでそれは思い知っただろう? 小僧」
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