第31話 戦王

俺は、青の王国を占領して、新拠点を作り、続いて赤の国を一気に占領した。


そして、今は次の国を探している所である。


「将軍さんよ、国王はアテにならねぇから聞く。次はどこ行けば良い?」

「次は、この大陸の殆どの戦争の火種になっている国だ。いや、あそこは要塞と言っても良いだろう」

「要塞?」

「さっきも言ったが、戦争大好きおじさんがいるって言ったろ?そこの国王は戦王と呼ばれており、事あれば、とりあえず戦争をおっぱじめるって言うやばい奴だ」


戦王か......殆どの戦争の火種って、どんだけ戦争やってんだ?


「事ある毎にって事は、例えば?」

「『知らねぇ商人がやってきた。調べるの面倒だから、とりあえずぶっ潰す』と言った感じだ」


適当だな......まるで戦争を、遊びだと思ってんのか?てか、戦争でぶっ潰された商人が無念過ぎる。


「しかも、戦王は、今まで起こした戦争の中で手を抜いた事は一度も無いそうだ」


あれだな......蟻一匹に、大袈裟に潰す奴だ。


「そら怖いわぁ......」

「だから、魔王も近づいた瞬間に、大軍が押し寄せて来るかも知れん。気をつけろ」

「嫌だわぁ......まぁ、向こうも戦争ふっかけて来るんなら、望み通りにしてやりゃあ良いんだろ!」


そうして俺は、ずっと西にあると言う戦王の国へ、全部下を連れて行った。


道中俺は、全部下を連れて歩くが、量産型ゾンビやゴブリンが多くいるせいで、地響きが凄まじい。


これから全面戦争でも行くのだろうか?と言っても、部下全体にそれ程の緊張感は、一切感じられない。


俺の後ろを付いてくるゴブリンが俺に話しかける。


「魔王様!いやぁ、こんな大所帯で、進軍するなんて久しぶりですねー」

「あ?そうだな......ってか、全部下を編成した事はあるが、進軍は初めてなんじゃないか?」

「確かにそうですね!いやぁ、何かワクワクしますね!」

「あぁ、これから攻撃しますよみたいな雰囲気めっちゃ出してるけど、次の王国は先制攻撃されてもおかしくない。用心だけはしとけよ?」

「了解です!」

「ウルフはどうだ?」


俺のすぐ隣を歩くウルフは大きく遠吠えする。


「アオーン!」

「良い声だ!良し、全軍!一気に突っ込むぞぉ!」

「うおおおお!」


俺と俺の部下は、一斉に戦王の国まで走り出す。


そうして、漸く国の影が見えた所で、俺は目を見開く。


薄っすらと見える王国の影だが、良く見ると、王国から黒い球の様な物が発射されている。


もう気づかれたか?と思った瞬間、地上から約八十五度の角度から球が飛んで来た。


「うおぉお!?みんな避けろ!」


全部下は咄嗟に避けると、丁度俺たちが集まる中央に着弾した。


精度ヤバすぎね!?


こちらから見える王国の影までの距離は、大体まだ、千メートル以上はある。


この時俺は、この戦王の国はただの戦争好きの国では無い事を察した。


着弾した球の大きさは、約五メートルはある。こんな大玉当たってたら、一撃で部下の半数が減る所だった......


「みんな!大丈夫か!」

「ヒュー!やるじゃねぇか!安心しろ魔王!次は俺の拳でぶっ壊してやるよ!」

「おぉ、それは助かる。ここで珍しくお前が役立つ時が来るとはな」

「ハハ!次こいやぁ!」


俺はフロガを信じて、また進軍を始めると、後七百メートルの距離から、二発目が飛んでくる。


「っしゃおらぁっ!俺様の拳をくらいやがれ!」


フロガは、片方の拳を突き出すと同時に、咄嗟に両手に切り替え、球をがっしりと抑えた。


「何してんだ......?」

「威嚇射撃ってのは、こうするんだよおぉお!」


フロガを高くジャンプし、まるでバスケのダンクシュートの様に、球を王国へ投げ返した。


投げ返した球は、見事に王国の中央あたりに直撃し、煙を上げた。


ナイスシュート!......じゃねええええッ!


「何してんだフロガ!これじゃあ完全にこっちが喧嘩売っちまったじゃねぇか!」

「あ?これから戦争ふっかけるんじゃねぇのか?」

「違ぇよ!あ〜台無しだ。少しでもフロガに期待した俺が馬鹿だった!」

「馬鹿と天才は紙一重って言うだろ?ガハハハ!」


いやいやいや!お前には天才のての字も無え!


「もういい!全軍!突撃だ!全力で制圧せよ!手加減は無しだ!」

「うおおお!」


こうして、戦王の国との戦争が始まってしまった。


最初にヴォルグレイが、地面を凍らせ、進軍を手助けする。


しかし、俺も含め部下の殆どが、凍結した地面の滑りに耐えられず、転びそのまま流される。


「ちょ、ちょ!滑るッ!うわああ!?」

「済まない魔王、加減を忘れていた」

「ここは加減しろよおぉお!」


俺は、滑りながら一気に王国との距離を詰めるが、城壁の上に立つ大砲が、機関銃に変わる。


不味いッ!このままだと一掃されちまう!どうにか出来ないのか!


「どぅおおぉおりやぁああ!」


フロガが、滑り中の俺の真横を横切る。


そしてフロガは、城壁に激突し、城壁の一部に豪快に大穴が開いた。


「フロガ!一人で突っ込むな!」


しかし俺の声はフロガには届かず、城壁内で、何かが崩壊する音と、叫び声が聞こえる。その音と声はだんだん小さくなっていった。


城壁が損壊した事で、王国の兵士達に混乱が巻き起こる。


俺は、それに乗じて城壁の大穴を見ると、その大穴は、他の建物も貫き、完全に王国を横切る様に、貫通していた。


どこまで行ったんだ......?


その時、王国内の全体放送か、耳をつんざく叫び声が聞こえた。


『貴様らあぁあッ!儂の王国をボコボコにしやがって!絶対に許さん!こうなったら完膚無きまで潰してくれるわッ!!』


これが、戦王と呼ばれる王様だろうか。とてつもなくお怒りの様だ。


「いゃあ、ブチギレてますね〜」

「大丈夫だ。全て、フロガの所為だ」


俺は、声の振動に魔力を帯びさせ、拡声器モドキを作る。


「おーうーさーまぁあぁ!聞こえるなら聞いて下さい!全部、そこの猿がやった事でーす!」

『分かった!全軍その猿を潰せえぇええ!』


そして戦王含め、全軍がフロガほ方へ向かい、王国は完全手薄となった。


「これを狙ってたんだよぉ!」

「いや、これは流石に馬鹿過ぎるのではないか?......」


俺は、まさかの事を狙っていたと捉え、ヴォルグレイは呆れている。


「まぁ、フロガならあいつらを吹っ飛ばして戻ってくるさ......

このうちに占領するぞおおお!」

「うおおお!」


全部下が、一斉に王国に入り込み、何も破壊する事無く、王宮だけを封鎖する。


「魔王様!この玉座空いてまっせ!」


俺は、ゴブリンの言う事を聞き、玉座にサッと座り込む。


「いやぁ......長い戦いだった......」


戦王の国・占領完了。

......と思った。


それから数十分後、俺と全部下は、まだ完全封鎖しているが、フロガの戻りを待っていた。


しかし、フロガは、いつまでも帰ってくる事は無く帰って来たのは、戦王だった......。


「よぉ!フロガ!余裕だった......よな?......」

「あぁ、あんな猿、儂の雑魚にすらならんかったわ」


まさかの戦王の帰還に王宮内にいた部下達が騒然とする。


そこで少し怒りの混じった声でヴォルグレイが質問する。


「戦王よ。我が仲間であるフロガは何処へやった?」

「さっきも言ったろう?あんな物雑魚以下だと......部下は何人か犠牲にはなったが、儂にとってはひと捻りで終わりよ......」

「おい貴様......俺の部下を全員敵に回したらえげつないぜぇ?」

「なら全員で儂に掛かって来るが良い!儂は、戦争が大好きだ。数万対一と言う理不尽な戦いでもな、その先に待つ勝敗よりも、儂は死ぬかもしれない......いつ死んでも可笑しくないと言うスリルが堪まらんのだ......」


戦王は俺に、不気味な笑みを見せる。


「お前なぁ......」

「フハハハ......儂は、馬鹿なんだろう?魔王よ......儂らの国を墜とした時、苦戦したのは覚えていないのか?」


赤の王国もそんな事言ってたな......『俺らを墜とした魔王は何処へ行ったんだ』と......。


俺は、まだ思い出していない事があるのか?それとも、その記憶は先代の魔王の事か?いやしかし、数千年前に勇者に殺された俺は当時、全世界を征服あと一歩だったと言う記憶はある......


「まさか覚えてないとでも言うのか?本当にあの時の戦争は人生の中で最も楽しい戦争だった......全部下が、地に倒れ血を流し、空は赤く染まり、儂が全力を出したのはあれが最初で最期だった」


「んあ?全く覚えてねぇなぁ?......んな事より、じゃあ俺らの事を、今倒せんの?」

「あくまでも開き直るか......良いだろう......貴様の望み通りにしてやるよぉ!うおおおお!」


戦王は、その場で力を溜め、バチバチと点滅する赤く、禍々しい気を放つ。


「おぉっと?これは今まで無い力を感じるぞ?」

「グルルルル!」


ウルフも怒りで唸る


「行くぞ!お前ら!相手は一人!コテンパンにやっちまえ!」

「ウゴオオオ!ウギャアアァアッ!」


部下達は先程と違う様々な雄叫びを上げる。


「フハハハハ!纏めて掛かって来いッ!!」


最初に戦王を襲うのは、事前に作った巨大ゴーレムだ。


コイツいないと集団で歩く時、様にならないじゃん?


『横に並ぶ魔物の軍団、中央に見えるは、巨大な黒い影、あれは一体......?』

分かるこれ?


ゴーレムは、両手を組み戦王を潰そうとする。


「ウゴオオオ!」

「甘いッ!!」


戦王は、抜刀で腕を吹き飛ばし、両手持ちに切り替えたと同時に、ゴーレムを一刀両断する。


次に、ドラゴンが火を吹きながら、戦王に突進する。


「ウゴアアァアッ!」

「それがどうしたぁッ!」


戦王は、ドラゴンの突進の勢いを利用し、剣を縦に構えながら、正面からぶつかる様に、頭から尻尾の先まで真っ二つに切り裂く。


次に、量産型ゾンビが戦王に覆い被さり、身動きを止める。


「無駄ダァッ!爆鳳斬!」


戦王の剣の一振りで爆発が起き、同時に鳳凰の形をした炎が、ゾンビを巻き上げ、次々と喰らっていく。


「かっけええええ!いや!強過ぎる!」


これは本当に勝てるのか?戦う戦王はただ笑っている。しかし、こっちは本当に苦戦している!どうすれば良い!?


次は、ゴブリン達が戦王に一斉に飛びかかる。


「まだまだこれでは儂の本気は見せれんぞ!雷放!」


戦王は、蹲る姿勢を取ると、戦王に雷が徐々に纏い戦王は、それを一気に放つ。


すると、溜まった雷は球体状に広がり、飛びかかって来たゴブリンは雷の範囲内は消滅し、範囲外は吹き飛ばされ、火達磨となる。


次にウルフが飛びかかろうとするのを俺は止めた。


「待てッ!コイツマジでやべぇよ......」

「あぁ、今まで戦った事の無い者だ......」

「グルルル!」


攻撃をやめた俺の事を戦王は嘲笑う。


「フハハハ......もう終わりか?青の王国と赤の王国を簡単に占領し、調子に乗った魔王よ!」

「くっ!」


俺は、ヴォルグレイに命令をする。


「ヴォルグレイ!凍らせろ!」

「了解!」


ヴォルグレイは、戦王に氷に息吹を吹かせ、凍らせようとするが。


「溶解甲!」


戦王の身体は熱く燃え上がり、氷は一瞬で溶ける。


「おいおいマジかよ......」


残る部下は、ヴォルグレイ、ウルフ、エクウス、アエトスのみ。大物で行っても、数で行っても戦王に隙が作れない。


どうしたものか......


「あー!どうしたらいいんだぁー!」

「フハハハハ!どうした魔王!?餓鬼の様に駄々こねても意味は無いぞ?」

「チッ......うるせぇんだよ!糞ジジィがッ!」


俺は、大笑いしている戦王の懐に一気に詰め寄り、強烈なアッパーを繰り出した。


「ふぐぅっ!?がぁっ!!」


アッパーは、戦王の顎に直撃し、顎を砕く様な感触が俺の拳に伝わった。


「あがっ!......?ぎ、ぎさまぁ!あ、あおが......!」


どうやら本当に顎が砕けた様だ。


「さっきから厨二病みてぇな技名叫んでじゃねぇよ!あ?叫ばないと技発動出来ねぇの?」

「あぁあああ!うっころふ!」

「何言ってんのか分かんねえなぁ!?」

「ふんっ!」


その瞬間、戦王は俺の腹の所に瞬間移動し、俺は戦王の、渾身の一撃を腹にくらった。


その一撃は、胃を思いっきり持ち上げ、内容物を強制的に吐かせた。更にその衝撃で、肋骨が二〜三本折れる。


「がはぁっ......!?」

「ふぅ......まさか、直接殴りに来るとはな......」

「痛ええぇええ!お前ッ!顎砕けたんじゃねぇのかよ!」

「ふ、あんな物は演技に決まってるだろう?まぁ、顎が痛くて喋れなくなったのは事実だがな!」


俺は床に倒れ、悶え、身動きが取れない。


「ガルルル!ガァ!」


ウルフは怒りに任せ、戦王の首に飛びかかる。


「う、ウルフッ!よせ......!」


俺は、腹が痛くても必死に止めるが、ウルフには聞こえなかった。


「ぎゃああぁあッ!??」


ウルフは、戦王の首に噛みつき、引きちぎる。


「グガァッ!ガウガウ!」

「クソッ!離せっ!ああぁあ!......あ?」


ウルフは、引き剥がされそうでも、いつまでも戦王の首を噛みつき、どんどん食いちぎった。


すると戦王は、離せ離せとウルフを引っ張るが、突然脱力したように、目を見開き動きが止まった。


「ウガアァアアッ!!!」


戦王は床に倒れ、ビクとも動かなくなった。


しかし、ウルフは、更に更にと、戦王の体を食い破り、そのまま喰らおうとする。


「止めろ......!ウルフッ!」


ウルフの目は、野生の狼の目をして、まるで言う事を聞かない。


「や、めろ......ウ......」


そこで俺の意識は途絶えた。

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