第29話 腐敗した王国

俺は、地下牢から脱獄後、国民を洗脳し、王国を我が物とした。


そして、世界の平和を約束してしまった。


これから、いくつもの戦争の火種を消すために、王国を占領する事になるだろう。なのでこれから分かり易い様に、王国に名前を付ける事にした。


現在、俺がいる王国は、元々名前があったらしいが、国王がボケ爺の為、国の名前すら覚えていない様だ。なので俺は、この国を青い騎士が多く居るため、『青の王国』と名付ける事にした。


因みに、俺の王国になったので、魔王国でも良い。


さて、平和な世界を作ると約束してしまった以上、そうしなくてはいつ国民に裏切られてもおかしく無い。


まずは、混乱した世界の源、戦争を止めなくては話にならないだろう。


俺は、ボケ爺と呼ばれる旧王に質問する。


「なぁ、爺さん。ここらでまだ戦争が起きてる国ってあるのか?」

「あー戦争は怖いのぉ......」

「その戦争ってどこで起きているんだ?」

「若い頃は、戦争の指揮をやっていたかの......」


駄目だ話にならねぇ!


「真面目に答えてくれ!爺さん!」

「戦争が起きてる場所か?うーむ......沢山あるのぉ」


沢山か......それだけ聞ければ十分だ。なら、隣の国にでも交渉しに行くか。


隣の国は遠くから見ると何となく赤っぽい。兵士にこの事を聞いてみると、それは血の色だそうだ。


これはまたしても厄介そうな国だ。


そして、俺は、久し振りにウルフを連れて二人で隣の王国へ行った。


「ウルフ、こうして一緒に動くのいつぶりだろうな」

「ワオ、ワフゥ......」

「なー、勇者奇襲以来かな?全くお前の相手出来なくてごめんな」

「ワン!」


ウルフとの会話。実はウルフが何を言っているのか俺は一切理解していない。


何となく、記憶を探って話してたら、意外と会話が成立しているので、これで良しとしている。


そうしてウルフと話していると、赤い王国に近づくに連れて、ウルフが、何かしらの匂いを嗅ぎながら歯をくいしばる様子があった。


「ウルフ?さっきからどうしたんだ?」

「ガッフゥ......グルルル......」

「鼻が詰まる程の匂い......?まさか、マジで血だってのかよ.....」


するとウルフは、突然大きく吠え、俺を突き飛ばす。


「な!?」


俺を突き飛ばしたウルフの方に火矢が飛んで来た。


交渉の余地も無しかよ!


「ウルフ!火矢を飛ばしてくる奴は、外壁の上だ!このまま強行突破して、外壁の真下まで行くぞ!」

「ワン!」


走っている間、いくつもの火矢が飛んで来たが、何とか避けながら真下までたどり着くと、すぐに攻撃は止んだ。


「一体なんなんだ......」


俺は、外壁に密着しながら一息吐き、大門まで移動し、門を叩いた。


門に耳を当てると、兵士の声ではなく、得体の知れない声が聞こえた。


「アケルナ......ゴミハ、ケセ」


声は掠れていて、低くカタコトだった。人間では無い?


「どこか他の入り口ねぇかなー」

「ワン、ワオ!」


ウルフは、所々、外壁から流れる排水口の格子の上で吠える。


いや、そこウルフならピッタリかもしれねぇけど、俺入る?


ここで、ウルフに偵察させるという案を思いついたが、中にいる奴らが人間だと分からない以上、一人で行動させるのは危険だと思った。


「仕方が無い......入ってみるか......」

「ワン!」


俺は、排水口に匍匐状態で入ると、本当に狭かったが、俺の体だとギリギリ入れるようだ。


「よし、ウルフ。ちゃんと後ろ付いて来いよ」

「ワフ......!」


ゆっくり排水口の中を進んで行くと、漸く俺にも鼻が曲がるような、腐臭を感じた。


その腐臭の正体は、この街に充満している血の匂いではなく、俺が進んでいる排水口に腐った肉塊が詰まっていたのだ。


ここの街、本当にどうなってんだ?


腐臭がしない安地は無い、何処からともなく呻き声が聞こえる、そして排水口の隙間から外を覗くと、まるで廃墟群の様に荒れている。


俺は、踏み入れてはいけない所に入ってしまったのではないだろうか。


そうして、やっと排水口の出口から外に出る事が出来た。


改めて辺りを見回すと、焼け崩れた民家、使われ無くなった廃ビル、至る所に乾いた血痕そして、廃人と化した人々。


一体この王国に何があったと言うんだ......。


狂気なんて物じゃない。飢餓?戦争?一揆?


色々な考えが思い付くがここまで悲惨な事にはならない筈だ。最早、現状復帰の余地すら無い。


この事を詳しく知る者は、ここの王しか居ないだろう。


俺は、王宮へ行く事にした。そこで、辺りを徘徊する廃人に見つかる。


「アァ?犬......犬だぁッ!うおおぉ!」

「犬だと?お前にはやらねぇ!俺が食ゥ!」

「ウオアァア!」


まさか、コイツらずっと食うもん探して徘徊して居たのか!


このままだとウルフが食われる!逃げても永遠と追いかけ回されるだけだ!


ここは仕方が無い......


「ウルフ!恐怖を与えろッ!」

「グガァッ!ワン!」


俺が命令するとウルフは、牙を剥き出し、向かって来る廃人の頭を噛み千切った。


廃人の頭がグシャっと地に落ちると、廃人は、恐怖で逃げ出した。


「ヒイィッ!コイツ、人間を殺しやがった!こんなん食えたもんじゃねぇ!」


そもそも、喰わせねえよ!


廃人は逃げ出し辺りは、静かになった。


「よし、ウルフ行くか!」

「ワン!」


王宮へと続く道中は、特に変わった所も無く、ずっと廃それた道が続いていた。


そして、王宮目の前に着くと、俺は目を疑った。


何故か王宮のみ、煌びやかな装飾がされ、煌々と金色に輝いていた。


まさか、本当に腐ってんのはここの王だって言うのか?


俺は、嫌な予感を感じながら、王宮へ入ろうとすると、王宮入り口左右に立っていた金の鎧が急に動き出し、俺の目の前で剣を交差させて入り口を塞ぐ。


「招待状はありますか?」


招待状?この中では、パーティでもやっているのか?


「招待状?んなもん持ってねぇよ」

「なら、此処をお通しする事は出来ません」

「その招待状ってなんなんだ?」

「王から直接招待を受け、既に全て国民に配り済みです」

「お前ら、この街の有様を見て、何も思わないのか?」

「この国はもう要らないのです。王さえ生きていればと思い、汚物は全て浄化させていただきました」


は?浄化......?汚物......?コイツの言っている事の意味が分から無い。


「何故浄化したんだ?」

「その質問は、王への反逆になります」

「そうか......なら、どうしたら中に入れてもらえる?」

「招待状が無ければ、王の許可があれば」

「なら許可取って来てくれよ」

「分かりました。『取れれば』ですが」


そう言って、見張りの騎士の一人は、王宮の中へ入って行った。


十分後・・・


「許可は、取れました......珍しいですね、王は一体何を考えていらっしゃるのか?では、お通り下さい、絶対に王にご無礼は無い様に」

「はいはい......っと、そういや犬は入れて良いのか?」

「あぁ、では、ペット用の靴を用意してあります。これを履かせてください」

「分かった。んじゃ、入るわ」


そして、騎士は交差した剣を退け、俺を中へ通した。


王宮の中は、とにかく広く、とにかく輝いており、外と比べればまるで、別世界の様だった。


招待状が必要とされていたものの、特にパーティ等は開かれておらず、所々に警備の騎士が巡回しているだけで、気味が悪い程に静かだった。


さぁて、この王宮にはどんな糞野郎がいるんだ?早くその顔を拝みてぇぜ......


俺の王の想像は、デブで、金にしか興味が無い野郎だ。


俺は、巡回中の騎士に道を聞いた。


「なぁ、そこの騎士、王は何処に居るんだ?」

「王はそこの階段を上ると、広い廊下に出るので、奥へ進むと大きな門があるので分かりやすいと思います。王はその部屋に」

「おぉ、分かった」


意外と親切なんだな......知らねえ奴でも、態度を崩さないってか......


俺は、説明通りに王宮の奥へ進むと、確かに大きな門があった。門の前は、警備員はおらず、恐らく中に沢山いるんだろう。


そして、俺は、門を自分の力でゆっくり開いた。


部屋に入ると、相変わらず部屋は輝いていて、赤いカーペットが玉座まで続き、その左右を間隔を空けながら、十二人の警備が立っていた。


そして玉座には、俺の想像とは全く違かった。


体は細く筋肉質で、しっかりとした鎧とマントを着て、俺を待っていたかの様な、にやけた顔で座っていた。


顔は......俺よりカッケェ!めっちゃ王って感じじゃん!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る