第二・五章
三周目
第22話 抜け落ちた記憶
俺は魔王。目覚めたら、城の様な所の玉座に座っていた。
俺は、過去に勇気に殺された記憶だけが残っていて、その他は何も覚えていない。
つまり、俺の目的は、世界を征服し、勇気を倒す事になる。
そして......今俺の目の前には、尻尾を振りながらこちらをつぶらな瞳で見つめて来る犬が居た。
犬には木の名札が付いており、名札には『ウルフ』と彫られていた。誰かの飼い犬だろうか?
ウルフ......?何処かで聞いた事がある様な、無いような、何故かそんな気がした。
「お前は何故此処にいつまでも居るんだ?ここに居ても餌は無いぞ?早く飼主の所に戻ったらどうだ?」
「クゥン......ワン!ワン!」
犬は、少し悲しげな表情を浮かばせてから、俺に何かを必死に伝えたいかの様に、何度も吠える。
「ごめんな。お前が何を言いたいのか俺には分からない。お前の飼主は何処だ?」
「ワン!!ワォン......」
犬は、しつこく吠えた後、俺の足に頭を擦り付けて来た。
「俺が飼主?はぁ......生まれて最初に見た物を親と思う動物見たいだな......どうしたら良いんだ?」
すると、城の外から、ぞろぞろと見知らぬ魔物が入って来た。
「魔王よ、目覚めたか......」
「ぐっすり眠りやがって!あの後、滅茶苦茶大変だったんだからな!」
「よう、相棒。目覚めた気分は如何かな?」
「......皆の者よ、魔王の様子が変ではないか?」
魔物の中で一際目立つ四匹の魔物は俺の事を知っているかの様に様子を伺うが、俺は、全く記憶に無い。
「お前ら、誰だ......?」
「おいおい!冗談キツいぜ?魔王。何だ?またぶん殴ってやろうか?」
「何故俺が殴られなくちゃいけないんだ?」
「お、お?まさか性格まで変わっちまったか?」
「いや、恐らく記憶がまた消えてしまったんだろう。しかし、今回は、前の魔王の姿を我々ははっきりと覚えている。何が何でも記憶を取り戻させるぞ」
四匹の魔物は、俺の記憶?を取り戻すとかで騒いでいる。何の記憶なのかは分からないが、俺を知っている魔物がいるのなら話が早い。魔族を召喚する必要が無いじゃ無いか。
「まぁ、良い。お前らが何者か知らないが、貴様らを世界を征服し、勇者を倒す事に使わせてもらう」
「それは無理だ。魔王が記憶を戻すまで俺達は魔王の言うことは聞けない」
「魔王の命令を無視するなんざ、魔族にとっちゃあ、絶対にしてはいけない事だが......少しは部下の話も聞こうな?」
「ッチ......仕方が無えな」
先程はから俺の部下は、『記憶』と言っているが、実は言えば俺も、何かを忘れている感じはする。
しかし、その記憶に靄が掛かった感じで、思いだそうとも、一つも思い出す事が出来ない。
なので俺の部下は、俺が何故此処に居るのか、そしてその前の記憶の整理をし始めた。
「まず魔王が殺されたのは、二日前だ。勇者の奇襲により、魔王は切り札としてルシファーで対抗するが、勇者の持つ『完全なる力』によって、魔王は簡単に伏せられた」
「それから、この俺様が魔王の死体をここまで引きずって来たって訳よ」
二日前と言う事は、予想以上に最近の事か。しかし、何故復活出来たんだ?
「じゃあ、何故俺は生きている?」
「それは、正直言って俺達でも不明なんだ。これで三度目になるが、玉座に座らせると、死体が数年又は、最短数時間で復活する」
この玉座か.....確かに、今までずっと前から座っていた気もするが、特別な魔力は玉座から感じられない。
「そして、二度目の時の魔王も、記憶を失っており、最低覚えているのが、『勇者に殺された』と言う事実のみ。それで魔王は、しばらく一人で部下を召喚もしたが、そこで、魔王には、四天王がいた事に気付く」
「その四天王がお前らって事か」
「そうだ。その後、全ての四天王を取り戻すが結局記憶が戻る事は無く、そこから新たな魔王活動が始まった」
「そして、その魔王活動途中に勇者の奇襲で俺は死んだのか」
「あぁ、あと少しで勇者を迎え撃つ準備は出来ていたんだがな......タイミングが悪すぎた」
「そうだったのか......駄目だ......全く思い出せない......」
「そうか。ならば一つ提案がある。それは、人の記憶ってのは、聞くより、見て触った方が、脳に影響を与え易いと思うんだ。だから、その犬ウルフの名札を触ってみてくれ。その名札は、お前が彫った物だからな」
「あ、あぁ......」
俺は、犬の首に掛かっている木の名札を触った。
その瞬間、何故か一気に記憶がなだれ込んで来た。
「お?おぉ!?おぉお!?」
「嘘だろ?触っただけだぞ?」
「あ、思い出したわ......全部。数千年前の記憶もな!!」
「はぁ!?まさか遂に思い出したか!一度目の記憶を!」
「あぁ!何故だか分からねえが、全部思いだした!でも......」
「でも?」
「一度目も、二度目も同じ結果じゃねぇか!てか、二度目の方が弱体化してる?」
「それは、記憶が無かったからな......」
「いや〜皆んな無事で良かったぜ。あの時、俺が最後の力を振り絞って、守った甲斐があったぜ〜あ、いや二度目には関係ないか......」
「って事は、四天王の事も思い出したか!」
「まぁな......でも流石に、全てを覚えている訳じゃないぜ?普通に忘れてるのもあるからな」
俺が覚えているのは、一度目で勇者に少しでも対抗した事がある、その時の記憶だ。
皆んなが何度も言っていた『あの時』だったり、『あの戦争』とは、特に名称がある訳では無く、俺達は一度目の時、魔王が世界を完全に支配するあと一歩手前で負けた事である。
「二度目に初めて知った勇者の力。主人公補正だっけ?あの力さえ何とか出来れば良いんだが...」
「あの力は、絶対絶命の危機に入った時、運命を無理矢理捻じ曲げるのか、超次元的な力を発揮する。俺達四天王でさえも、未知の力だ」
「言わばこれがチートってやつだよなぁ......これを正攻法で破る。これがこれからの一番でかい壁だ」
なんなら、悪役補正ってのは無いのか?魔王の第二形態の発動で負けイベとかねぇかなぁ......。
ん?第二形態?俺が第二形態を極めれば良いのか!
だって、とある伝説ゲーの魔王とか、人からデカイ獣になるんだぜ?あんなの俺からしたら憧れるに決まってんだろ!
「勇者に勝つ方法思いついたわ」
「どうした?」
「俺が変身すれば良いんだよ。これで決まりだ!」
「は?」
こうして俺は、全ての記憶を取り戻した。
そこで思いついた勇者を倒す方法は、第二形態。俺は、これから第二形態を極める事にした。
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