第二章

魔王と勇者

第17話 魔王討伐作戦・1

俺は、エクウスを回収後、エクウスによって運ばれた魔王城にて、盛大に吐いた後、丸一日休む事にした。


「あぁ、最悪だ。最後の最後で、こんなに気持ち悪くなるなんて......」


俺が昨日、エクウスによって展望台に運ばれた時の事を部下に聞くと、どうやらエクウスの回収は無事に終わったらしい。


成功とはつまり、エクウスが俺を魔王と認め、部下に戻る事を約束した証か......。


しかし、成功した理由を更に聞くと、俺は、何故か納得出来なかった。


その理由とは、『昨日の世界一周中、山脈あたりで起きた馬の乗り方が、まるで曲芸の様に美しかったから』だそうだ。なんだか馬鹿にされている様にしか聞こえないんだが......


そこで丁度エクウスが俺の所に来た。


「よ!魔王!昨日は良く眠れたか?昨日の魔王は本当に最高だったぜ!」

「もう他の部下から聞いたよ!重ねる様に言わないでくれ!」

「ははっ!それは違うな魔王。俺はお前を馬鹿にしねぇと生きて行けない体質でな!」

「自覚有りかよ!くそっ......舐めやがって」

「いやぁ、その悔しがる顔、過去の魔王と全く同じで安心したぜ〜どうやら、復活しても根は変わって無え様だなぁ!はははは!」


いや、駄目だ。これ以上コイツの挑発に乗れば、更に調子に乗られてしまう。気を付けなくては......。




一方、王国・・・


王国では、魔王の部下によって投げ飛ばされた勇者は、丁度、王国王宮の壁を突き破って飛んで来た様でそれ以来、王国内では、ここまでする魔王をどうにか倒す方法無いか模索している所だった。


「勇者殿、本当にあれから大丈夫ですか?」

「あぁ、ったく......やってくれるぜ。それと、その『勇者殿』って止めてくれねえか?なんか優遇されている感じが気に入らん。俺はついこの前までは、極普通の一般人だったんだ」

「あぁ、そうですか......んじゃ勇者、本当に大丈夫か?」


切り替え早えな。


「あぁ、壁突き破った時に背骨やったけど大丈夫だ」

「なら大丈夫だな!にしても、豪快に王宮に入って来た時はびっくりしました」


そう、未だに俺が突き破った王宮内の壁は、大きな穴が空いたまま、補強されていないのである。理由は『勇者が開けた穴』として、何故か崇拝されているからだそうだ。


何故、勇者はこんなに何でもかんでも優遇されるんだ?過去に魔王を倒した事が血が繋がっていない俺でも、その栄光が引き継がれるのか?


全くこの王国の考える事は分からん。


「さて、勇者よ、話が変わるが良いか?」

「あ?また貴族の援助でもするのか?」

「いや、今回は、結構重要でな。我々は今回の件を重んじて、魔王討伐作戦を開く事にした」

「また?そのせいで俺はここまで吹き飛ばされて来たんだろ......」

「この前、魔王奇襲作戦だ。どうやら、魔王に奇襲は通じないという事が分かった。つまり、次は、正面から特攻したらどうなるのかな?って思ってー」


思ってーってなんだよ、軽っ!


「お、おう......それで?どう特攻したら良いか考えてるって事か?」

「そう言う事だ」

「なら、俺から言える事は一つだ。特攻何だろ?だったら数の暴力って言葉は分かるよな?特攻ってもんは考える事じゃない、ぶつかる事が大事なんだ」

「確かに......言われて見ればそうでした!よし、討伐作戦否、魔王特攻討伐作戦は明日、開始する。明日までに出来る限りの兵を集めよう」

「その前にさ、これって王様の許可出てんの?」

「ん?あ、まぁ、許してくれるんじゃ無いですか?」


おいおいマジかよ......許可されなかったら怒られるの俺なんだけど......あの王様、怒ると妙に怖いんだよね......。


「おいおい......」

「まぁ、明日!明日!兵集めに、行くぞおおおお!」


勇者を前に、一人の騎士は張り切って王宮を出て行った。


まぁ、良いか......今は背骨折れて動けねぇし、王宮の床で寝るか......。


翌日の朝・・・


俺は、昨日の夜、王宮の床で寝ていた事を思い出し、やけにガヤガヤと兵士の声がうるさいので飛び起きた。


「んあ?......はぁ!?なんじゃこりゃ!」


飛び起きると、王宮内は、俺の寝るスペースだけ開けて、隙間なく、大勢の兵士が立っていた。


「勇者様!目が覚めましたか!」

「これってどういう状況?」

「聞いて居ないのですか?今日の朝が、魔王特攻討伐作戦の開始ですよ!」


はぁ!?マジでやんのかよ!そう驚いていると、王宮の外から、兵士を掻き分けながら、太い声が聞こえて来た。


「どけ!どけ!通せ!」


その声はすぐに王様だと分かった。そして、王様は息を切らして、俺の所まで来た。


「勇者よ、これはどういう状況だ!?」

「あー、勝手に騎士が、魔王特攻討伐作戦って開始しちゃって......数の暴力なら魔王を倒せると......」

「何だと......?」


王様は、絶望した顔から溜めて大声を出した。


「ぐぬぬぬ......何て素晴らしい作戦だ!いやぁ、遂に!魔王を倒せるのだな!これは成功するに違い無い!これが成功した後には、勇者に特別王家の勲章を与えよう!」


何で俺!?普通作戦を考えたあの騎士に与えるべきだろ!


いや?待てよ?そもそもこんな作戦が成功する筈が無いと分かっておきながら、俺のモチベーションを上げる為に、大袈裟な事を言っているのか?......


深く考えない方が良いか......俺の王様がそんなに頭がきれる人な訳が無いか......


しばらくすると、作戦を考えた騎士がここまで来た。すると、騎士が王様に耳打ちをする。


「ほほう。なるほど!それは良い考えだ!勇者よ、この前の奇襲作戦が何故失敗したか分かるか?」

「いや、分からん」

「お前の腕につけている、腕輪の石みたいな、宝具と言われているその石だ!」


説明下手かよ......王様が言っている事は、勇者がいつも身につけていたとされる宝具と呼ばれる腕輪の事だ。


この腕輪は、付けた者に古の勇者の力を与え、どんな大怪我を負っても、この力が命を助けてくれる。


実際に俺は王宮の壁を突き破る事で背骨を折ったが一日寝れば全然動ける様になっている。


しかし、この力が何故か魔王と繋がっており、勇者がこの力を使う度に魔王に情報が知られてしまうのだ。


「なるほどな......」

「だから今回はそれを外して行け」

「え?」

「だからその腕輪を外せば、魔王に情報を知られる事無く、全兵士を投げ込む事が出来る」

「いや、待ってくれ。俺これでも、あくまで人間なんだよ?この腕輪がある事で、この前の奇襲に生き延びて、ここまで投げ飛ばされても奇跡的に生きているんだ」

「確かに!それもそうだったな......おい。騎士よ、どう言う事だ?」

「勇者様、今回は我々全兵士に命をお任せ下さい。勇者様は、何もしなくて良いのです。ただ、情報を知られる事無く、全面特攻するのです」

「なるほどなー。多分とんでもねえ死者が出ると思うけど、俺には責任は無えって事だよな?だって兵士を集めたのはお前だろ?」

「勿論!今回の作戦で私も死ぬ可能性は大にありますが、もし責任者である私が死んだら、今回の作戦は無かった事にする予定なので」


騎士は、作戦を淡々と説明するが......考えている事は、想像を絶する程下衆だ。


責任者が死んだら、無かった事にする?全ての出来事を揉み消すと言うのか?


そんな事が可能なのだろうか?死んだ兵士の家族が王国に訴えたりする事は考えていないのか?


「勇者様、恐らく私の考えを聞いて、死んだ兵士の遺族はどうするのかとお考えでしょう」

「おう、良く分かったな」

「勿論。あらゆる理由をつけて事故死として伝えさせていただきます」


駄目だこの騎士。お前はそれでも王国を守る騎士か?しかし、俺はこの作戦の責任者では無い。


少しでも死者を減らす方法が無いかと考えるが、少しでも関われば遺族の標的は全員俺へと向かう。


過去、魔王を倒し一度世界を救ったと言う勇者の称号を受け継いでいるんだからな。これほど背負って重い称号程これ以上の物は無いだろう。


魔王討伐作戦において、作戦失敗、多くの死者を出した事が公になれば、俺はその遺族に殺されかねない。


それを避ける為には、『俺は何もしない』と言う選択しか無いだろう。


そして、俺が腕輪を外すと、騎士が行軍の指示を出し、一斉に数十万と言う兵士が、王国の外へ、魔王城に向けて動き出す。




魔王城・・・


魔王城では、王国軍がこちらに向かっている事も知らずのんびりと過ごしていた。


「さぁて、遂に四天王全ての部下が揃った。後はどうする?」

「勇者の迎撃の為に、更に戦力を増やしたらどうだ?」

「いいね!どうせこっちに来るにはまだ時間かかると思うし、久しぶりに全力召喚するか!」


俺は、四天王を取り戻し、最初のトロールを召喚しただけでバテるよりはかなり魔力は溜まってきた。


これから召喚する魔族は、魔神級の魔族。確かトロールは魔人だから、その上位互換だ。


遂に、神に近い存在まで召喚出来る様になってしまうとは。どれだけ強力なのだろうか?


そしていつもの召喚の言葉を言う。


『天界から魔界に墜ちた堕天使よ。今、地の底から這い上がり、この地を滅ぼさん!』


魔法陣に全力の魔力を注ぎ込んだ。


ん?堕天使?魔神と言おうと思ったら間違えちまった......これは、ドラゴン召喚以上にヤバいんじゃねぇのか!?


そして、魔法陣は、妖しく、強く、眩しく光り出し、突然衝撃波を放つ。


「うおっ!?」

「おい魔王!一体何を召喚する気だ!」

「魔神かと思ったら堕天使召喚するかも!」

「はぁ!?もう俺は何も知らねえぞ!」


そして、魔法陣から全身真っ黒の羽根を生やしたヤバそうな奴が召喚された。


そして、その魔族が名乗ると俺は、汗が止まらなくなった。


「我が名は王の中の王。大魔王ルシファーなり」

「あ、すみませーんお帰り下さーい」

「む?貴様からは、俺と同様。魔王の気質を感じる......汝よ、名を名乗れ」

「えーと、魔王です。名前って物は無いですねー」

「ほう?魔王か......魔王のオーラを出し、自らの名を魔王と名乗るとは、それ程の自信があると見る」

「いやぁ、自信もクソも無い、最弱魔王って言われてるんですけどねー。何故でしょうか?」

「つまり、オーラは飾りか?まぁ良い」

「って言うかー、ルシファーさん?貴方を召喚したの俺ですから」

「何!?大魔王が魔王に召喚されるとは......一体どう言う状況だ?」

「多分召喚した時の魔力がルシファーさんの同等になったからじゃないですかねー。と言う訳でこれから俺の部下になって貰っても構いませんかぁ?」

「うぅむ......召喚されたのは事実だ......致し方無い。ならば、その身を持って、俺の力を超えよ。その時は本当の部下として従おう」

「オーケー。んじゃもう俺寝るわ......疲れたし」

「.........」

「ルシファー。気にするな。これが俺たちの魔王だ」

「了解した」


四時間後・・・


俺がぐっすり寝ていると、突然エクウスに蹴り起こされ、無理矢理目が覚めた。


「何すんだよ!」

「何すんだよじゃねぇ!とんでもねぇ数の王国軍がこっち来てんぞ!」

「はぁ!?最悪のタイミングかよ!」


俺は、すぐに展望台に登り、既に警戒中のアエトスから状況を聞く。


「アエトス!あいつらは一体何もんだ!」

「王国軍の兵士が約三十万。勇者の姿は見えない。どうやら、王国軍は、国内に勇者を残し、特攻して来る様だ」

「三十万!?やっぱ戦争規模の人の数ってやべぇなぁ......」


そこで魔王城前にいるフロガの雄叫びが、ここまで聞こえて来た。


「うおおおお!!燃えて来たぜ!全員掛かって来いやぁ!!」


「やる気だなアイツ......さぁて、次こそ緊急だけど俺が指揮を取る!」

「頼むぜ!」


そして、俺は全部下に命令をする。


「魔王の命令だ!今回は予想以上に敵の数が多い。全員俺の指示通りに位置に着き、今度こそ本当の防衛線を張るぞ!」


「防衛線は前と同じだ!前衛にゴブリンとトロール、後衛にフロガとヴォルグレイ、展望台と上空はドラゴンとアエトスで攻撃の期を待て!そして、エクウスは俺と王国軍の周りをぐるりと回り、偵察に行くぞ!」


「そして......ルシファー。お前に出番は無え!お前の力がどれだけの規模か分かんねえから城内で出待ちしててくれ!」

「了解した......」


これで防衛線は、完璧だ。人間と魔族の力の差を見せ付けてやる。

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