第5話 魔族の覚醒
俺は、魔族召喚した魔物の記憶と、過去の記憶を探る事は不可能の理由を知り、征服の他に計画していた、記憶を取り戻す事は諦めた。
なので、これから、新たな記憶と、新たな部下を連れた世界征服を本格的に始める事にした。
まず世界征服と言っても、部下を集めるだけでは、何も始まらない。なので、ゴブリン達が友好関係を持っているであろう隣の村へ行き、俺が魔王である事を明かそうと思った。
隣の村へ着くと、何時も通りゴブリン達が、村の物資を分けて貰っていた。
「また会ったな村人」
「あぁ、これは、この前ウルフという仔犬を連れて帰って来たマオウさんではありませんか」
「ん?名前を言った記憶は無いが」
「それは、何時も物資を分け合っている小人達が主人の事をマオウ、マオウと呼んでいたので、貴方の事がマオウかと」
「なるほど」
魔王をマオウと呼ばせるとは、かなりギリギリだと思うがこれはバレていないのか......
「そこで言いたい事があったんだ。実は、お前らが思っていた小人とは、ゴブリンなんだ」
「ゴブリン!あの恐ろしいゴブリンが小人達だったとは、しかし、かなり穏やかな性格をしていますな」
「あぁ、こいつらは、お前らと友好関係を持ちたいと言ってるからな。これからも良くしてくれ。後、俺は魔王だ」
「なるほど!それは良い考えですなぁ。そう言えば私からも、聞きたい事が有りまして、マオウさんが飼っているウルフ君居ますよね?」
「あ、あぁ」
「何時もこちらの村で元気良く遊んでいるのは、良いのですが、何故か餌をあげても、無視する様に食べてくれないのです」
「そうだな。一応あいつも魔物だからな。魔狼という一種で肉にしか興味が無い。つまり、肉はあいつにとっては、おやつでもあり、飯でもある。そして俺は魔王だ。」
「そうだったのですか。なら、私らが育てている、家畜を餌にすれば十分ですかね」
アレ?さっきから俺は魔王だって言ってるのに気付いていないのか?
「そうだな......。後、言うのを忘れたんだが、俺は、魔王なんだ」
「ふむ......。ん?マオウさんですよね?それは知ってますよ」
「いや、そっちのマオウじゃなくて、マジの『魔王』なんだよ」
「マオウ、マオウ、ま、魔王!?あー、あまり覚えてはいないのですが、世界を闇に陥れ、恐れられたあの魔王ですか!ははー。まぁ、今の貴方はその欠片も無いので全く分かりませんでした」
欠片も無いって......ちょっと傷つくな。
「まぁな、今は記憶を失っているんだ。だから今お前の目の前にいる魔王は、全くの真っ白な魔王って訳だ」
「なるほどー」
と言っても、記憶がもう二度と戻る事は無いんだがな......
「と言う訳でこれからもよろしく頼むなって伝えに来た訳だ」
「かしこまりました。そうですね。そうとなると、一つ注意して欲しい事があります」
「なんだ?」
「実は我々の物資は、遠くにある王国から届けられている物で、兵士に貴方達の姿が見られれば、敵対視され、貴方も、私達も問題になり兼ねません。なのでくれぐれも、見られない様に」
「分かった」
「王国騎士の方達は、魔物を絶対なる敵として見て居ますので、協力している我等もどうなる事やら......」
王国騎士か......聞いた事は無いが、多分名前からして、めっちゃ強い奴らなんだろうな。最後の襲撃地点として覚えておこう。
ただ、今集団で襲われたりなんかしたら、初期ステータスで、ラスボスに突っ込むと言う、実験も必要無い結果になるだろう。
そう王国騎士の事を考えていると、嫌な事はすぐに起きてしまった。
目の前を見て気付くと、物資を運ぶ王国騎士と、物資を警護するには見合わない四人程の騎士がいた。
同時に村人が、急いでゴブリンを非難させていた。
他の村人を見ると、顔を青ざめており、まるで、今日、騎士達は来るはずでは無いと思っていたかの様だった。
「これはこれは、騎士様。何時もありがとうございます。今回は何時と違う日に来ましたね?」
「あぁ、最近、魔物と思われる動物がここら辺をうろついていると言う報告を受けた。周辺の注意喚起と、ここの村は周りに何も防衛線が無いからな。これから、ここが一ヶ月防衛対象となった」
「な、なるほど!それは、有り難い限りですが、我々も、その魔物の事は何度も確認済みでございます。しかし、一度も襲撃された事はありません。是非、心配なさらず」
「それは無理だ。これは、王国騎士の命令だ。一ヶ月間、ここを防衛する。それとも、何か問題でも?」
「い、いえ!何ともありません......」
こいつらが王国騎士か......。王国騎士と言う権力と見て分かる強さで村の奴等を圧制している。しかし、これが防衛と言えるだろうか?まるで村の奴等の外出を禁止させ、封鎖している様にも見える。
これこそが、いつか世界征服する為のやり方なんだろうなと、学習しながらも、俺の心の底からは、何か不快感があった。仲間を傷つけられるかもしれ無いと言う不愉快感があった。
その気持ちに共感したのか、物資の箱に隠れているゴブリンが箱ごとゴロリと倒れた。
その瞬間を見た、騎士が疑いの目で、箱を見つめる。
「おい。今この箱動かなかったか?」
「家畜じゃ無いのか?」
「村人よ。この箱には何が入っている?中を見るぞ」
「あぁっ、それは!」
騎士が村人の反応を見ると、にやりと笑い、その後すぐに倒れた箱を勢い良く蹴り飛ばした。
『ギャギャ!』
突然の衝撃に箱の中にいるゴブリンが声を上げた。
その声を聞いた瞬間、騎士の目が、疑いの目から、怒りの目となり、村人を睨み付ける。
「おい。これは、どう言う事だ?どう見ても、魔物の声だよな?まさか、俺たちが来た時、引き返させようとしたのはこれが理由か!」
「ひぃいッ!すみません!すみません!でもこのゴブリンは本当良い性格をしており、我々に物資を送ってくれるのです!」
すると、騎士は、村人の方へゆっくり歩き、胸ぐら掴んで宙へ上げる。
「何だと......?そうか。貴様らは、裏切り者だったんだな。魔物から物資を受け取り、我々の届けている物資が妙に早く減ると思ったらこんな事をしていたとは......」
「ひぃ!どうかお許しを!騎士様が魔物を嫌う事は、十分に存じております!しかし、魔物もこんなに優しいとは思わず、ついやってしまったのです!」
「十分か......いや、許さん。魔物と協力する者は、どんな理由であれ、一度でも犯した場合は、即刻その場で処刑!それが我々の掟だ......。魔物が過去犯した、大魔王軍世界制圧作戦。あれは忘れてはいけない。貴様はここで一度死ななければならないのだ!」
村人を掴んだ騎士は、腰から剣を抜き、宙に浮いた村人を貫通した。
「ぎゃあッ!あ.........」
「ふははは!これでまた平和は守られたな。他の村の者!村長は死んだ。この愚か者と同じ行為をすれば同じ目に合う事を忘れるな」
その時、俺の胸の心臓辺りが激しく痛む。村長が何をしたと言うんだ?ならば俺らを殺せば良いじゃ無いか。村長が殺される理由などあるはずが無い!
俺は、思わず姿を騎士達に見せた。すると、他のゴブリンや、トロール、ウルフも一緒に出て来た。
しかし、みんなの様子がおかしい。ゴブリンは、赤く目を光らせ、怒り狂う様に叫んでいる。トロールは、姿を見るだけで圧迫されそうなオーラを出しており、特にウルフが一番様子がおかしかった。
ウルフの様子を見ていると、その瞬間を遠吠えをした。
「グルルル......アオオオン!」
ウルフの毛が銀色に輝き、仔犬サイズのウルフが大型犬サイズになり、鋭い牙を生やした。
「ガウ!ガウ!」
「おい!ウルフ!どうした!」
「やっぱり隠していたか。見ろ、魔物が優しい?馬鹿めが、凶暴そのものじゃ無いか。目の前の狼だって、正に、今俺を食い殺したそうな目をしている」
「ウガアァアアッ!」
そうか!みんなの様子がおかしいのは、仲間がやられたからだ!みんな、誰も危害を加えないから一切何も凶暴性が無かったが、あの凶暴性は、仲間を守る気持ちがあったからなのか!
「よし!ウルフ!その怒りに身を任せる事を許可する!今度こそ暴れてやれ!」
「ウガアアァア!」
「魔物風情が!真っ二つにしてくれッ......?」
騎士がウルフに剣を振り下ろすと同時に、騎士の言葉が途中から遮られ、剣と、頭が地面に転がった。
頭の無くなった騎士はその場で倒れる。
それを見た他の騎士が腰を抜かし、さっきまでの威勢は何処へ行ったのか、震えながら命乞いをする。
「ひ、ひぃッ!お、俺達が悪かった!なんでもする!お願いだから命だけは助けてくれ!」
「何でもする?ならお前はここで生きる資格は無い。死ぬんだな」
「そ、そうだ!俺を殺さず、貴様らの仲間に入れてくれ!これから俺は騎士を裏切る!な?仲間が増えて良いだろう?」
「村長を殺した奴に言われてもなぁ......そうだ、ここは村人達に決めて貰おう。みんな!聞いてくれ。こいつを許し、俺の仲間に入れるか。許さず、この場で殺すか。どっちにする?」
俺の質問に村人は、全員、騎士に向かって罵声を浴びせる。
「村長が居なくなった分、騎士が入っても、何にも変わらねえよ!」
「もう騎士なんてクソ食らえだ!俺らが信頼していた騎士達は一体何だったんだ!」
「殺せ!殺せ!」
「だそうだ。じゃあ決まりだな。騎士殿?」
「ま、待て!俺には家族がいるんだ!妻と娘が!俺は、魔物から家族を守る為に騎士に入ったんだ。この通りだ!俺にはまだ正義と言う物が残っている!だから、だからぁッ!」
家族?俺には家族なんてものはいないから分からない。村長が殺された時の胸の痛みも、今になっても良く分からない。仲間が死ぬのは嫌だけど、命に代える程では無い。
「無理だ。俺にはそう言う物は分からないんだよ。」
「この下衆がッ!もうやめだ!俺は絶対にこんな所では死ぬ訳には行かないんだよ!」
騎士は吹っ切れたのか、剣を構え、震えながらも立ち上がる。
「トロール剣を」
「あいよ」
俺は、トロールの剣を持ち上げようした瞬間、あまりの重さでバランスを崩す。
「んん!?おっとっと」
「やめろ、来るな......やめろ......」
「これで、終わりだぁ!」
「うわああああ!!」
勢い良く剣を持ち上げ、騎士の頭上に向かって剣を振り下ろした。
騎士の断末魔は、村全体に響き、切り裂かれた騎士はその場で倒れる。
こうして、村には平和が戻った。
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