我歩く、故に我在り―ひたすら歩く異世界譚―

アーモンド

プロローグ

足で稼げ、なんて言葉を聞いた事がある。

多分、言葉そのままの意味ではないけれど、その時小さかった俺は思った。


『歩けば歩くだけ金になるのか』


だけどもちろん、営業マンの収入は思うより高くはない。低いとも思わないけれど。

デスクワークでウン百万ウン千万稼ぐ人もざらにいる世の中だと言うのに、俺の財布はパンパンに小銭が詰まって重かった。

札がないとは言わない。だけど、そんなに枚数がある訳でもない。

だが悲しいかな、福沢諭吉は俺の財布にはいないのだ。

まあ、つまるところ俺は金が欲しかった。

そりゃあ誰だって多かれ少なかれお金は欲しいだろうけど、なるべく働かないで稼げる、言うなれば【非労働収入】が欲しかった。


だけど現代日本で、それは叶わない。

そんな時俺の元に飛んできた朗報。


『実は死後世界は億万長者になりやすいらしい。何故なら【足で稼ぐ】事が出来るから』


どうやら俺の、幼い頃の勘違いもあながち間違いではないみたいだ。

俺はとりあえず、自分の万歩計をポケットにしまった。

今時万歩計なんて古くさいかも知れない。けれど、歩けば歩くだけ稼げるなら、より正確に勘定したいたちなのだ。

家計簿もその方がつけやすいし。

営業という職業柄、目標を作るにあたって万歩計はベストなアイテムだった。


そして俺は異世界がある事を祈りつつ、自宅マンションの12階から飛び降りた。

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