ウィザード&ワーウルフ 二つの最強を宿す者

湖城マコト

第1話 深夜の廃ビルにて

 薄暗い深夜の廃ビルの屋上で、二人の男が臨戦態勢で向かい合っていた。閉鎖された工場が立ち並ぶ地域のため、周辺に人の気配は無い。


「何故我々の邪魔をする……」


 黒いローブをまとった風変わりな男が口を開いた。フードを目深に被っているため表情を伺い知ることは出来ないが、その口調には明らかな苛立ちが感じられる。


「俺だって面倒事は嫌いだけどさ。俺が邪魔しないと、あんたらはこの街で厄介事を仕出かすんだろ?」


 学校指定のスクールシャツの上にスタジャンを羽織った少年が、気怠そうに溜息を漏らす。


「障害は排除しなければならない」


 ローブの男は腰に携帯していた得物を抜き、体の前で構える。それは日常ではまず目にすることの無い戦闘用の短剣だった。


「物騒なもん出しやがって」


 短剣を向けられても少年はまったく動揺しない。

 本人は認めたくないだろうが、この程度の状況は少年にとって日常の一部に過ぎないのだから。


「我らに異をなす愚者に死を」


 ローブの男の短剣が赤く発光し、周囲の空気が震えた。トリックや気のせいではない、短剣から異常な力の波動が発せられている。


滅殺めっさつする!」


 感情的な声を上げたローブの男は短剣の先を少年に対して真っ直ぐに構え、勢いよく突進した。その勢いで周囲に衝撃波が発生する。

 赤い殺意を纏った剣先が少年の間近まで迫る。だがそんな状況にあっても少年は顔色を変えず、冷静に状況に対処した。


 短剣が届く直前に少年は軽やかなステップで右方向へ跳び、短剣による刺突をかわした。


 攻撃を外したローブの男はバランスを崩し、微かによろめく。


「反射神経は良いようだが、それだけでは私には勝てぬぞ」


 ローブの男は次の攻撃に移るために再び短剣を構える。少年を確実に殺すため、より強大な力が短剣へと込められ、先程よりも強力な赤い光が発せられる。


「正当防衛だから恨むなよ?」


 男に一言断りを入れると、少年は着ていたスタジャンを勢いよく脱ぎ捨て、半袖のスクールシャツ姿となった。四月の中頃にしては季節感に欠ける格好だ。


「強がりは止せ、これで終わりだ」


 ローブの男は自分の勝ちを確信し慢心の笑みを浮かべた。限界まで短剣に力を込めたら、その一撃で確実に相手は死ぬ。


「強がりかどうか、確かめてみろよ」


 そう言い放つと少年は両腕を広げる。すると、左腕には紋章のような物が浮かび上がり、右腕からは禍々しい気配が発せられた。


「……な、何が起こっている」


 突然少年に起こった変化にローブの男は困惑している。

 無理もない。自分が短剣を構えた時よりも、さらに大きく周囲の空気が震えているのだから。


「ここからは俺のターンだ」


 少年は余裕に満ちた表情でローブの男へと近づいていく。


「く、来るな!」


 少年の雰囲気に気圧されローブの男は尻餅を着く。攻守は完全に逆転していた。

 間近まで迫った少年の両腕を見て、ローブの男は驚愕に表情を引きらせる。


「……貴様は、人間ではないのか?」

「普通の人間だよ。腕以外はな」

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