僕はこの世界で生きていく

おーがみ

第1話

僕はなんでここにいるんだ?


気がつくと僕は明るい茶色の髪をした若い女性の腕の中にいた。

女性はとても優しく微笑んでいる。

その女性の近くには鍛えられた体を隠そうともしないイケメンの男と幸せそうな雰囲気で僕を見ている。


そこでふと、自分の体に違和感を覚えた。


おかしい・・・。

体が動かない。

それに思ったように声も出せない。

なんなんだこれは、、、

僕は状況が飲み込めず暴れに暴れ、突然きた睡魔に誘われた。




目が覚めると目の前には広い天井が視界を覆っていた。

周りを見ようと目を動かすと、どうやら僕は柵のようなものに入っているようだ。

自分の姿を見ようにも、思うように体が動かない。


これ、さっきもあったなと思いまた暴れようとすると、先ほどの女性が近寄ってきて僕を優しく抱っこした。


これで理解した。

ああ、そういうことか。

僕は赤ん坊なのか。

思うように動かない手足、声を出そうにも出るのは「あー、うー」とうまく発音できない言葉だけ。


自分の状況を冷静に分析していると不思議な点が浮かび上がった。


なんで僕は赤ん坊と理解できたんだ・・・。

赤ん坊になる以前の記憶を思い出そうとしても何も思い出せない。

はっきりしていることは赤ん坊だけど中身は赤ん坊ではないということだ。


―――


3ヶ月の時が過ぎた。


赤ん坊というのは中々退屈だ。


何か意思表示があってもうまく伝えられず、泣くことしか出来ない。

早く言語を理解したいと思うが、まだ少ししか理解出来ていない。


たどたどしいがわかったことはある。

父親の名前がロイドで、母親の名前がエリス。

はじめは気づかなかったが、2人には娘がいて、リリスと言うらしい。

つまり、僕の姉だ。


ロイドとエリスは20代前半くらいだと思うが、リリスは2歳だ。

普通なら理解できないであろう僕にお姉さんだよってことをすごいアピールをしていた。


うん、これは可愛い。


最近気づいたことがある。

それは、母のエリスは僕が泣くとすぐに近づいてきて何が必要か察する力があるようだ。

ほとんどがトイレか食事なんだが、外を見たいと思って泣いた時に、わかってくれたのかつれていってくれた。


逆に脳筋のロイドはあたふたしていたけどね。


やっぱり、母親って言うのはすごい。



―――


さらに3ヶ月後。


半年過ぎると話していることが理解できるようになった。

まだ言葉を発音することは難しいが、だいたいはわかるような気がする。

もしかしたら、僕は物覚えがいいのかもしれないと思うほど。


それと僕は動けるようになった。

ハイハイができるようになると僕は家中を探検するのがひとつの楽しみである。

今まで動けなかった分を取り返すようにはしゃいでいた。


探検していると気づいたことが増えた。

どうやらこの家は2階建てで、1階だけでも部屋は5つ以上ある。

1度だけ父に連れられ2階に行ったことはあるが、なぜか恐怖で目が開けられなかった。

初めての場所で怖がっていると、父が大丈夫と安心させてくれた。

父親の安心感ってのはすごいな。


この家は何となく気づいていたが、裕福な家庭だ。

4人家族で住むには広すぎる環境。

たまに両親の友人が泊まりに来ているようだが、僕はまだあったことがない。


「父さんが帰ったぞー」


どうやら父のロイドが帰ってきたようだ。


「みんなどこだぁー」


父の忌々しい声が聞こえる。

毎回帰るとやる事があるんだが、僕は正直嫌だ。

なぜなら、頬にキスをするからだ。


エリスやリリスは嬉しく受け入れているようだが、僕は抵抗がある。

このわからない記憶が残っているせいでもあるとは思うが、何故だろう。



晩御飯が食べ終わった頃、父は訝しそうに今日倒した獲物の話をしてくれた。

村の近くにある森にいつもと違う魔物がいたみたいだ。

1人の魔法使いが傷を負ったが、父がカッコよく魔物を切り殺したらしい。


「なにかの前兆かしらね」

「何が起こっても、俺が守るからな」

「あなた・・・」


その話を聞いてエリスが心配そうにしていたが、ロイドがイチャイチャに持っていく。

僕とリリスはそんな両親をぼーっと眺めているだけだった。


ここには魔法や剣がありふれている。

そんな現実に僕の心はワクワクしていた。

まるでこの世界で生きていくのが楽しみなのかもしれない。
























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