まつりのあと
ハル
第1話
学生の頃より幾分か短く感じた一年も暮れに差し掛かって、いつの間にかモコモコのジャンパーを羽織らずには外が歩けなくなっていた。
僕は昨日、待ちに待った年末年始の休暇のために、数ヶ月ぶりに実家に戻ってきていた。
今は持て余した暇を消化しようと、懐かしくも見慣れた街をぶらぶらするために駅への道を歩いている。
休日とはいえ、大して面白いものはない街なのに、妙に人通りの多さが目につく。
小さな女の子がお母さんと手をつなぎ、一歩進むたび振り回すような勢いでご機嫌に手を振っていて。
見ているこっちが寒くなるような半ズボン姿の男の子たちが、どこで覚えたのやら、友達と大声で下ネタを言い合いながら、小走りで僕を追い越していき。
なんとなく目で追った彼らの背中の向こう側、狭い交差点に建つ花屋を背に、白いコートを着た女の子が視線を辺りとスマホとを行き来させて、端から見ていて分かるほどそわそわしていた。
きっと、これからデートなんだろうな。
学生時代に青春らしい青春とは無縁だった僕には、それだけで別世界の人に見えて、チクリと胸の奥が痛んだ。
凝視をしているのも悪いと、僕はすぐに彼女から視線を外し、意識して前を見る。
「あっ……」
待ち合わせの彼がきたのか、女の子の何かを見つけたような声が聞こえたものの、わざわざ振り返るのも失礼だと思って、そのまま人の流れに乗って歩き続ける。
真っ黒な星の見えない空の下、角を曲がるとわっと人が増えた。
……あぁ、そっか。そろそろだと思っていたけど、今日だったんだな。
広くはない道の両端に、紅白の屋根を持つテントがすし詰めで並んでいて。
そこから煌煌と灯る安っぽい電球の灯りと、立ち上る灰色の煙が絶妙に混じり合って寒風に乗って流れていき。
元気なおばちゃんの呼び込みが、奥へと飲み込まれていく人々に熱気を注ぎ込んでいるように見えた。
さっき僕を追い越していった男の子たちは早速、チョコバナナの列に並んでいる。
先に食べ始めた子のそれはもう半分ほどしかなくて、横の子に脇を突かれた拍子に身をよじると、よほどギリギリまで引き出していたのか、割り箸の先端から離れた食べかけのバナナは見事、大空へ飛び立つ自由を手に入れ、悲しくも冷たい地面の上に落下した。
哀れ、重力に縛られたバナナよ。お前の夢は忘れない。
ぎゃーっ、と悲鳴が上がった。続いて笑い声。その光景に、僕は思わず口元が緩んでしまう。
「この寒い中よくやるよ」
地面に向かって、ふと独りごちる。
毎年この時期にやっている、町内会が主催するこぢんまりとしたお祭り。
僕にとっても馴染み深く、お囃子やお神輿のようなものはないが、目の前の男の子たちが繰り広げている顛末も、かつての自分と重なってまた懐かしくなってくる。
高校生くらいから、行くこともなくなってしまったけれど。
いつも誰かと一緒に参加していた僕は、一人ぼっちで人混みに入っていった。
片側大人二人分も並ぶのがやっとの道端を、左側通行でゆったりゆったり進んでいく。
大判焼き、焼きそば、焼きもろこし、たこ焼きと定番の焼きモノシリーズに紛れて、ゲーム機が当たるくじ引きやら射的やら、スーパーボールすくいなど、本当にあたりがあるかも疑わしい、こちらも定番の景品が並ぶテントが建っている。
入り口付近を抜けるといくらか快適で、このお祭り最安値っぽいリンゴ飴を買った。
帰ってから食べようという、食べ歩きが醍醐味のお祭りにあるまじき計画のもと、リンゴ飴を小さなビニール袋に入れてもらい、ぶらぶらと手に下げて進むうち終点に着き、そのままカラーコーンを中心にUターンして来た道を戻る。
戻り道はとてもうさんくさいアクセサリーの屋台があった以外は目新しさはなく、出口まで流れ出て、その足で駅へ向かった。
駅ナカの本屋で立ち読みして、特に何を買うでもなく帰途につく。もともと欲しいものがあったわけじゃないし。
帰り道、僕がまた花屋の前を通りかかると、腰を下ろして小さくなっている白いコート姿をまた視界に捉えた。
今度は胸がざわついたのを看過できずに一度立ち止まり、膝を抱えるような格好の少女との、三メートルほどの距離を縮める。
近づいてくる足音に白いコートを来た少女は弾かれたように顔を上げた途端、露骨にがっかりした顔を見せた。
「よっ」
女の子の前まできた僕が思わず苦笑混じりに声をかけると、ゆっくりと立ち上る。
はぁ、とため息をついて、のたまった。
「なんだ。忍(シノブ)か」
実は彼女とは、僕が小学生の時に転校してきてからの付き合いだったりする。
たまにSNSのタイムラインに自撮りがアップされることもあって顔は分かっていたけど、普段はわざわざ話すこともなくて、そのままなんとなく距離を感じている。
……さっき声をかけそびれたのも、それが理由の一つ。もちろん他人の恋路を邪魔をしないように、というのが一番だったわけで。
「帰る」
でもちょっと露骨な態度にイラッとした僕はくるり反転し、その場を立ち去ることにする。
「ちょっと」
ハシッと肩を掴まれる。一瞬頬に触れた指先が冷たい。
「帰ろうとしなくてもいいじゃん」
「待ち合わせの人が来たら、勘違いされちゃうと思って」
振り返って言った僕の皮肉に、詩穂(シホ)は怒りの形相を浮かべて何か言おうと口を数度開閉させたのち、きゅっと口を引き結び、俯いてしまう。
「そんなわけないじゃん。バカじゃないの」
ぐず、と詩穂は鼻をすすった。
「ごめん」
ちらと僕を見た双眸は暗がりでも分かるほど赤くなっていた。
アニメとかゲームなら落ち込むヒロインの頭でも撫でてやるところだが、僕がそれをやると怒られるだろうから、ポケットに手を突っ込んだまま何をするでもなく、縫い付けられたようにその場に突っ立っている。
そんな僕に詩穂は、
「なんか言ってよ」
と、涙声で言った。
「なんかってなに」
「知らない」
詩穂はまたスマホを眺める。
逆さまに一瞬見えたチャットアプリの画面は、相手からの返信である白い吹き出しで終わっていた。
「……ばか」
それは果たして僕に言ったのか、自分自身か、はたまた未だ姿を見せない意中の王子様に言ったのかわからなかったけど。
どう声をかければいいかもわからなかった僕は、手に下げていたビニール袋からリンゴ飴を引き抜いて、
「ん」詩穂に差し出した。
「なにこれ」
「リンゴ飴」
「そうじゃない」
「知ってる」
けど、どうすればいいんだ、この状況。
またいい人が見つかるよ、みたいな変な励ましをしたところで意味がないことくらい分かってる。
かといって僕がこの場から立ち去ると、詩穂が独りぼっちになってしまう。さっきの態度には腹が立ったが、そっちの方が嫌だった。
当分はまたここでじっとしていることだろうし、さ。
それにこの居心地の悪い時間が無意味でもないことも、長い付き合いだからこそなんとなく知っている。
ふとリンゴ飴の白い持ち手を握り締める詩穂の手が震えているのが目についた。
ほどなく、ぼた、ぼたっと詩穂の長いまつげから振り始めた雨は、すぐに本降りになる。
力の抜けた左手から抜け落ちたスマホが、音を立てて足下に落ちた。空いた左手が僕のコートの肘の少し下を掴む。
「うっ……ぐずっ……」
「……おつかれ」
僕は詩穂が泣きやむために何をしたらいいのか、今もまだを知らない。
それでもせめて失くしたり、踏んだりしてしまわないように、一度僕は腰をかがめてスマホを取り上げる。その拍子に見えてしまった空に向けて光るトーク画面には、
『ごめん。詩穂とは付き合えない』
と決定的な言葉が返ってきていた。
画面の電源を切り、手帳型のカバーを閉じる。
「うぅ……うぁ……あっ……」
昔から直球勝負しかできないくせに、肝心なところで小心者で、強がりで、寂しがりで、傷ついてしまうのは、あまり接することのなくなった今でもきっと変わらないんだろう。
今だって、必死で嗚咽を堪えようと強がって、折れそうな自分に抗っているように僕には見える。
僕は一旦詩穂のスマホを自分のポケットにしまい、なだめるつもりで優しく彼女の肩を叩く。
半歩分の僕との距離が埋まり、僕の胸に、詩穂が頭を強い力で押し付けてくる。
たまに話すと僕に冷たいツッコミばかりしてきたくせに、こういうときだけ甘えたように使われるのは……まあそのなんていうか、悪いことばっかりじゃないというか、ずるいなあって思う。
「頑張ったんだ」
どれくらい経ったか分からないが、涙のピークが過ぎた頃を見計らって、何も知らない僕は、分かった風に呟いた。
詩穂は額を擦りつけるように頷く。
「すごいよ、詩穂は」
「……?」
涙で腫れぼったくなった目で僕を見上げる。
「悩んで眺めてるだけって人が多い中で、一歩踏み出したんでしょ。すげーなー、って僕は思う。まぁ最近会ってなかった僕が、何を偉そうにって感じかもだけど」僕の薄っぺらい言葉に、ごまかすようについ笑ってしまう。
「……そうかな」
詩穂は落ち着きを取り戻しつつあるようで、鼻をすする間隔が次第に長くなる。
ここでティッシュでも差し出せたらかっこいいんだろうけど。
「相手はどんなやつなの?」
「忍よりイケメン。忍より優しいし、忍より面白い」
「さーせん」思わず苦笑い。てか、なんで僕がディスられてるのか。
ようやく体が離れ、ひしひしと感じていた奇異の目からも解放される。
そしてわずかに気が緩んだ僕は、次の一言に面食らうことになる。
「相手、女の子だけど」
「えっ!?」
ニッ、と涙の跡が残る顔で、詩穂は口を横に引いて笑った。白いコートの袖で目を拭う。
本当のところは分からないが、もし本当に相手が女の子でも、やっぱりかっこいい人なんだろう。かっこいい女の子とかますます勝てる気がしない。
「は? 冗談だし。なに本気にしてんの?」
僕をからかう時の慣れた口調。どうやらこっちは嘘ではないらしい。
一転して微妙な心持ちになった僕は、空に大きく息を吐いた。この表面上の切り替えの早さも、詩穂の長所のひとつなのかも知れない。
「さて、じゃあ僕は帰るよ」
詩穂には悪いけどすごく疲れた。
「あたしまだお祭り見てないんだけど」
そう言って、僕があげたリンゴ飴をビニル袋から出して、巻かれたセロファンを剥がす。
なおも帰りたい雰囲気が滲んでいたのだろう、詩穂がむすっとした表情をし、目を伏せた。
数秒思案顔になり、今度はぱっと閃いたように晴れ渡り、むふふと危機感を感じる声を漏らす。
「あたし、忍と一緒に見て回りたいなぁ~」
なるほど、耐性のない男子を地獄に落とす上目遣いだ。だが僕に効くと思ったら大間違いだ。
「……」
「……」
がっちり視線を合わせたまま沈黙。やがて恥ずかしくなってきたのか、気まずくなってきたのか、詩穂が目を逸らした。
「勝った」
違うそうじゃない、と内心でツッコミを入れ、
「しょうがないから、少しだけ付き合ってやろう。感謝しろよ」
と、なるべく尊大な態度を意識して、言い放つ。
「うん、ありがと」
「……」
普段なら何様と怒られるところが、やけに素直な反応に、逆に僕の方がばつが悪い。
「なに照れてんの? ウケる」
「ウケない。そういうのは思っても黙ってるのが優しさでしょ」
連れ立って歩き出す。
「あたし、忍には優しくないから」
「調子いいやつ」さっきまで泣いてたくせに。
連れだってまた人の流れに乗る。
ちびちびと突くように口先を細めてリンゴ飴を舐める詩穂を見て僕が、また自分の分を買おうと決めた矢先、
「忍~、あたしベビーカステラ食べたい」
急に足を止めて僕のコートの袖を掴み、猫なで声を発する。しかしその程度では僕は揺るがない。
「じゃあ待ってる」
「冷たくない?」
「僕は、詩穂には優しくないから」
少し前に言われたことをそのまま言ってやると、詩穂は吹き出した。
「うわー、腹立つ」
にんまりしてから、詩穂は諦めて自分でカステラを買いにやたらムキムキなおっちゃんに声をかける。
「ベビーカステラ二つくださーい」
「五百円!!」うるせぇ。
「はーい」
おっちゃんがスコップみたいな器具で紙袋にカステラを詰める間、ふと見た詩穂の横顔、その視線がおっちゃんではない一点を見つめていることに僕は気づいた。……気づいてしまった。
それは十メートル先、右前方、頭ひとつ分周囲より長身で、今時珍しい坊主頭に向けられていた。
彼の手前、いかにも男子が好きそうな服を纏う女の子が、坊主頭に笑顔を向けている。
お互いに屋台で買い物をしていて、列から半歩ずれた場所にいるだけあって、存在がくっきりと浮かび上がっている。
不意に坊主頭と目が合う。一度僕から外れて、もう一度ぶつかる。
「ありがとうございましたぁぁ!!」
気づかないふりをして気合いの入ったおっちゃんの声に振り向けば、詩穂がカステラの袋を受け取ったところだった。
「行こう」
「うん」
詩穂も、僕が気づいてることを察しているはずだ。
頬のあたりがチクチクする。彼に、見られている……気がする。
彼から陰になるように詩穂は俯いて僕の右側を歩く。
列に戻ると、前を歩く人の頭上から覗く白いテント屋根が、交互に足を動かすたびに近づいてくる。
もともと大した距離でもない。すぐ横に迫って来る。
左側一メートル、さきほど彼らがいた場所にはもう、違う客がたこ焼きを待っていた。
僕はホッとして思わず息をついてすぐ、休憩スペースになっているたこ焼き屋の先で、向かいのベンチに座っていた坊主頭と目が合う。
「……!?」
心臓が跳ねる。思わず足を止めてしまった。詩穂も気づいたようだ。
『……』
僕の中から喧騒が遠ざかる。
なんとなく窮屈そうに、後列の人たちが背後を追い越していく。
アニメなら、この特殊な結界の外は自分たち以外の人たちの動きが止まるのに、それが反射して自滅してしまったかのように、僕たち三人は動けなくなった。
今の僕は詩穂と大して接点もないのに、何かを勘違いしていると思しき坊主頭の顔が次第に険しくなってくるもんだから、僕は引くに引けなくなったというよりむしろビビってしまって、隣で剣呑なオーラを詩穂が発しているのも相まって、どうすればいいのか迷ってしまう。
視界の隅で唯一時間停止の魔法がかかっていない、坊主頭の彼女っぽい人が目を丸くして僕を除いた二人を見比べている。
「だれ? この人」
小首を傾げて、坊主頭に作った声で尋ねた。あざとい。怖い。背筋がぞわぞわする笑顔の殺気。
天然装ってる系の臭いがする。詩穂もよくやるやつだ。……僕以外に、多分。
「あ、いや。なんでもない」
君はとりあえずツレに目を合わせて言おうか、この正直者め。
「……あほくさ。忍、いこ」
「あ、あぁ」
突然詩穂は僕の腕を組んで引いた。
振り返り、
「あたし、この人と付き合ってるから。高橋くんに興味ないから。ごめんね」
と、僕でもわかる明らかな負け惜しみを言う。あるいは別の人と結ばれた、高橋くんと呼ばれた彼を気遣ったのか。
彼は、視界の端で何か言おうとしてかわずかに口を開いていたが、前に向き直った僕らの背中を追いかけてくる言葉はなかった。
「どうしてあんなこと言ったんだ? 高橋くん? だっけ、……のこと好きだったんだろ?」
「うん、好き」
即答された。
「ふーん……」なら、強がらなきゃよかったのに。
「優しくてかっこよくて嘘つけなくて運動できて、でも勉強はあんまりで、虫が嫌い」
「虫嫌いなのは仕方ないでしょ」
「えー、やっぱ虫大丈夫のほうが、なんて言うかいいじゃん」
好きな人とはたとえ小さなことでも、より好きになりたい。そういうことなんだろうか。
物をねだる子供のような口ぶりで言った詩穂の口元が緩んでいる。
ありきたりな言い方だけど、詩穂の周りが淡く色づいて見えるような気すらしてくる。
僕が知らない、恋する女の子の顔。
こうして見ると、詩穂って可愛いんだな……。いやいや、何を考えてるんだ僕は。恋をしている人が素敵に見えるって、ちょろすぎるだろ。
「あたしのどこがダメだったのかなぁ」
思い出したように、詩穂はりんご飴をかじる。
「さーね。あ、りんご飴僕も買ってく」
訂正。あげてしまったので買い直す、だ。
「買ってあげよっか」
「別にいいよ。高くつきそうだし」
「バレたか」
またやけにマッチョなおっちゃんから、二百円出してりんご飴を買う。
子どもの頃から必ずいるけど、あのベビーカステラの店の人と実は兄弟なんじゃないかとずっと疑っている。年々疑惑は深まるばかりだ。
実は一人の時にも同じ店で買ったので、僕の横で、おっちゃんお手製のりんご飴をかじる詩穂の存在に、若いっていいなぁ、みたいな温かい視線が気になったが、さりげなく一本おまけして白いビニールに入れてくれていた。
さっさと行け、と手を振られる。
おっちゃんに会釈をして列の中へ。
間もなくお祭りの端っこに着き、カラーコーンを支点にUターンしてまた歩き出す。
帰りは足を止めることなく進み、多分半分くらい道のりを戻ったところで僕は口を開いた。
「さっき、自分のどこがダメだったか、って言ってたけど」
詩穂は返事をしなかったが、意識が僕に向いたのを感じたので続けることにする。
「僕は、詩穂を見てて可愛いって思った瞬間って、ある」
「は?」
「あ、いや変なこと言った。ごめん」
「……」
詩穂は思案顔をして、黙り込む。そしてさらに変なことをのたまった。
「忍、ホントにあたしと付き合わない?」
「ん?」
一瞬なにを言われたのかわからなくて、僕は無意識に聞き返していた。
「じょーだん」
なにか言った方がいいんだろうか。
迷う僕は詩穂が今どんな顔しているのか確認する勇気も持てないまま、二週目も終点、つまり入り口まで戻ってくる。
「じゃ、また」
「……ああ」
花屋の角、途中まで方向は同じはずの詩穂の背中を見送ろうと、足を止めて挨拶を交わした。
ところが詩穂は、それからも僕と向き合ったまま動こうとしない。
「どした?」
問うと、詩穂は少し前にりんご飴から解放された指先で、髪の毛先をいじりながら
「あの……さ、」
歯切れが悪く言う。
「うん?」
「さっき言ったこと、ちょっと考えといて。あたし、間違ってたって気づいたから」
「間違ってたって、何を?」
よく意味が分からない僕を置いてきぼりにして、詩穂は何も言わずに今度こそ遠ざかっていった。曲がり角の手前で手まで振ってやんの。
「……帰るか」
見えなくなった詩穂に追いつかないように、ゆっくりと僕も歩き出した。
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