99話-3、続、焼き鳥屋八咫の手伝い
生涯寝坊常習犯の花梨が、母性の行き場を失っていたクロをなだめ終わった、朝十時頃。
ようやく解放された花梨達は、急いで
未だ大繁盛している『のっぺら温泉卵』の横を通り過ぎ、大通りを埋め尽くさんと歩く観光客を避け、足を止めずに向かってから、約数分後。
祭りの
「
「おっ、やっと来たか! ん?」
「遅いよ、みんな……。あれ?」
まだ距離があるものの。遠くからハッキリと聞こえた花梨の呼び声に、八吉と神音がすぐさま反応を示す。
しかし、違和感が凄まじい三姉妹の顔を認める否や。二人して目を細め、光沢を放つツヤツヤな花梨達の顔を、凝視し出した。
「おはようございます! すみません、遅れちゃいまして」
「いや、それは全然構わねえんだけどよ。なんで顔が、そんなツヤッツヤなんだ?」
「みんなして、鏡面仕上げみたいな卵肌になってるじゃんか。どうしたの? それ」
三姉妹に顔を寄せると、自分の顔がクッキリと映り。花梨が「あっははは……」と苦笑いし、二人の顔を歪めていく。
「今朝、色々フル充電してきたというか、なんというかですねぇ」
「今日一日、ものすごく頑張れる気がするわっ!」
「真夜中までノンストップ」
深い愛情と母性が浸透していて、頬を上手く指で掻けない花梨や。大人の妖狐姿に
そんな、遅れてきた理由なぞどうでもよくなるような三姉妹の登場に、八吉と神音は、ただただ呆気に取られていた。
「ま、まあ、とりあえずやる気は、あるみたいだな」
「三人共、ありがとうねー。人手は多ければ多いほど助かるよ。今日はよろしく!」
「はい! 祭り提灯の設置、
即戦力の働きをすると豪語した花梨が、笑顔で頭を下げると、法被姿の妖怪達から快く迎え入れられ。頭を上げた花梨は、明るくほくそ笑んだ。
「へえ〜、櫓の設営経験もあるんだ。八吉から聞いたけど、ほんと色々出来るんだね」
「他にも太鼓の張り替え、花火玉作り、屋台の食べ物作り、なんでもござれです!」
「花火玉も作れんのかよ!? それだったら、前々から声を掛けてりゃよかったな」
花火玉と聞き、本業が花火師の八吉が目を丸くしながら驚いては、あったかもしれない『八咫烏の日』を思い描き、やや残念そうに腕を組む。
「そうだねー。ねえ、秋風君。来年の『八咫烏の日』は、一緒に花火玉も作ろうよ」
「いいんですか? なら、是非お願いします!」
『河童の日』の打ち上げ中。ぬらりひょんから、事実上の秋国永住権を与えられた花梨にとって、来年以降の約束も気兼ねなく交わせるようになり。
神音の誘いも即快諾した花梨は、『河童の日』だけではなく、『八咫烏の日』でも予定を入れられた事が嬉しくなり、神音達に満面の笑みを見せた。
「へへっ。来年の『八咫烏の日』は、これまた楽しくなりそうだな。けどまずは、明日に控えた『八咫烏の日』だ。花梨、ゴーニャ、纏、今日はよろしく頼むぜ!」
「はい! よろしくお願いします!」
「よろしくお願いしますっ!」
「がってん承知」
改めて気合いを入れ直した花梨達が、全員と軽く顔合わせを済ませた後。まず初めに、秋国全体を祭り会場にするべく、八吉の装飾説明が始まった。
装飾提灯の間隔、屋台の設営場所。花火大会に向けた、打ち上げ筒の各設置箇所と場所。ゴーニャと纏は、話についていくのがやっとだったが。
祭り大会運営及び、花火師の経験がある花梨は、「ふむふむ」と理解しては辺りを見渡し、指定された場所の確認を行っていく。
しかし、
「空中櫓って、一体なんなんだろう?」
「そっか。流石に秋風君も、ここの特殊櫓は知らないか」
「そうですね、初めて聞きました。どこかに高台を四つぐらい建てて、その中央に櫓を吊るす感じですかね?」
「発想は良いけど、ちょっと違うんだなー」
八吉を差し置いて、仕事超人に説明出来る場面が来ると、神音は得意気に「ふっふーん」と言い、人差し指を立てた。
「秋国の大通りは道幅が広いけど、道のど真ん中に大きな櫓を何基も建てたら邪魔になるじゃん? だから文字通り、櫓を宙に浮かしちゃうのさ」
「櫓を宙に!? ……はぇ〜。でも、どうやって櫓を浮かすんですか?」
「
「あっ、なるほど」
時折出てくる楓の名に、花梨はすぐ納得出来てしまい、不可解だと思われた『空中櫓』の絵さえも、頭の中で簡単に描けてしまった。
「ほんと、色んな場面で活躍していますね。楓さんって」
「しかも、嫌な顔一つしないで受けてくれるもんだから、つい甘えちまうんだよな」
「だねー。でも、私達だってちゃんとお返しはしてるんだよ」
「お返し、ですか?」
質問しか返せない花梨へ、神音は「そっ」と言ってはにかんだ。
「出店の価格は、大体三百円から五百円に設定してるんだけどさ。妖狐さんに限り、オール百円で提供してるんだ」
「妖狐神社だけに括ると、外から来た妖狐に
「へぇ〜、細かな部分にも気を配ってるんですね。……んっ? て事は」
妖狐全員という言葉に、何やら悪巧みを思い付いた花梨が、小悪党さながらな笑みを浮かべつつ、ゴーニャと纏を手招きで呼び寄せ、小さな円陣を作った。
「ねえ、みんな。『八咫烏の日』当日は、妖狐に
「おい、花梨。聞こえてんぞ」
ジト目で睨みつけていた八吉が、素っ気ないツッコミを入れると、花梨の体にビクッと大波が立ち。バツが悪そうな苦笑いを、八吉へ見せつけた。
「や、やだなぁ〜八吉さん。冗談っですって! 冗談」
「花梨、目が本気だったよ」
「纏も目が本気だったわっ」
「うっ」
ゴーニャの暴露に、花梨と同じ企みを巡らせていた纏も、体に小波を立たせた。
「ダメよっ、みんなっ。せっかくのお祭りなのに、ズルをしちゃっ」
「そんなゴーニャは妖狐になってるけど、当日はどうするの?」
「妖狐になってるんじゃなくて、私は元々妖狐よっ」
「おい、お前もかよ」
まさか、ゴーニャまで乗ってくるとは、纏も予想すらしておらず。驚いてジト目がまん丸になり、口を小さくポカンと開けていた。
「いいねー、ゴーニャ。自然に悪ノリが出来るようになれてきたじゃん」
「あっ、今の悪ノリか」
「ふふっ。お客様や、みんなのお陰よっ」
が、神音だけは見抜いていたらしく。八吉と同じく騙されていた花梨と纏は、瞬きしか出来ない顔を互いに見合わせていた。
「さてとだ。茶番はこれぐらいにして、さっさと作業を始めるぞー」
「っと、そうだったや。よしっ! そろそろ真面目にやろっと」
手を叩きながら出した八吉の合図に、場の空気が一気に引き締まると、花梨達も緩んでいた気持ちを引き締めては、各々持ち場についていった。
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