77話-8、言わせない禁断の愛と、絶叫し続ける者
夫婦となった
しばらくの間、売値を半額以下にすると約束してくれた木霊の
夜に捗ると言い、怪しい香炉を渡してきた猫又の
結婚セールだと称し、永久的に着物レンタルの料金を値下げしてくれた、ろくろ首の
診断、薬、整体マッサージの料金を格安にすると確約してきた、カマイタチの
渡せる物が特に無く、祝福のなんたるかを
増築とリフォームまで無料で行うと再度約束してきた、鬼の
各々個性があるプレゼントを送り終え、改めて全員で祝福の言葉を大量に浴びせた後。予定には無かった大規模な会食が始まった。
全員が席に着き、豪華な和食に
大ぶりな海老の天ぷらを食べた八吉が、対面の席で巨大な伊勢海老の刺身を食べている花梨に目をやり、鼻からため息を漏らした。
「花梨とゴーニャもすまねえな。結婚する事を言わなかったのにも関わらず、狐の嫁入りに参加してくれてよ」
先ほどから詫びを入れ続けていた八吉に対し、花梨は口の中に入っている刺身を飲み込んだ。
「いえいえ、気にしないで下さい。とても貴重な体験が出来ましたし、すごく楽しかったです。ねっ、ゴーニャ」
「うんっ。ちょっと緊張しちゃったけど、夢のように楽しい一日だったわっ」
未だ結婚については知らないものの。当たり障りのない感想を述べたゴーニャが、フグの唐揚げを口に運ぶ。
「ほら。ゴーニャもこう言っているので、私達は全然大丈夫です」
「そ、そうか?」
「はい。八吉さん、ここに来てからずっと謝りっぱなしだったじゃないですか。せっかくの日が台無しになっちゃいますよ? なので、謝るのはもう禁止です。分かりましたね?」
「うっ……」
ぬらりひょんや楓ならまだしも、よもや花梨に釘を刺されるとは思いもよらず。黒毛和牛ステーキに伸ばしていた箸が止まり、体を波立たせる八吉。
「ふっふっふっ。花梨に言われたら何も言い返せまい」
「そりゃそうだけどよお……。楓、少しは俺の気持ちも察してくれよなあ」
「分かっとるが、お主も気にし過ぎじゃ。のお、神音?」
「むぐっ……!」
不意に話を振られるも、自分にも思い当たる節があるのか。驚いて松茸を喉に詰まらせた神音が、慌てて胸を強く叩き、喉に引っ掛かっていた松茸を飲み込んだ。
「わ、私も気にしてる所があるので……。八吉の事をとやかく言うのは、ちょっと」
「なんだ神音よ、お前さんもか。本当にお前さんら、似た者同士だな。夫婦と言うよりも、まるで兄妹みたいだ」
「えっへへへへ……」
ぬらりひょんの例えを悪く思っていないようで、神音が
「花梨っ。ケッコンていうのは、私達でもできるのかしら?」
「……ゴーニャ君? 君はいったい、何を考えているのかな?」
「ほらっ。ケッコンしたら、キスができるでしょ? だから私も、花梨とケッコ、むぎゅっ」
ただキスをしたいが為だけに、禁断の愛を申し出そうとしたゴーニャを、花梨は「はい、ストーップ」と受け流しつつ両手で頬を押した。
「ダメじゃぞゴーニャ。ゴーニャが結婚したら、花梨の子の顔が拝めなくなってしまうじゃないか」
「楓さん? 問題はそこじゃないと思うんスけど……」
「花梨の、子……?」
三人の会話に耳を研ぎ澄ませていたぬらりひょんが、『花梨の子』という言葉の意味を、頭の中で歪曲させたのか。
途端に硬直し、持っていたフォークを皿の上に落としたかと思えば。体が小刻みに震え出し、呆然としている顔を花梨に移していった。
「か、花梨……? お前さん、彼氏が、いる、のか?」
「へっ? い、いやっ、いないですよ!?」
「だって……、今、楓が、花梨の子って―――」
「てめえ秋風、どこの馬の骨と付き合ってやがんだ? ああ?」
「……はい?」
心ここに在らずで、今にも泣き出しそうでいるぬらりひょんに、花梨が弁解しようとするも。突然横から、遠くの席に座っていたはずの鵺が割って入ってきては、逃がさまいと花梨の胸ぐらを鷲掴んだ。
「いやあの、鵺さん? 聞いて下さい。私に彼氏は―――」
「がりんぢゃんがげっごんずるなんでぇっ! あだじぃ、いやだぁっ!!」
「花梨ちゃん、彼氏さんがいたの!? ねえ、誰、どんな殿方っ!?」
「えっ、えっ?」
勘違いしたぬらりひょんが、早とちりをした鵺を召喚し。更には血の涙を流している雹華、興奮気味に詰め寄ってくる釜巳を呼び寄せ、花梨が為す術無く囲まれていく。
「あ、あの……! そうだ、クロさん! クロさんも、ちょっと皆さんに何か―――」
「花梨が、結婚? ……嘘だろ? 母として温かく見送るべきなのか……? いやでも、まずは花梨の彼氏がどんな奴か確認するべきじゃ……?」
鵺、雹華、釜巳に体を激しく揺さぶられている花梨が、場の雰囲気に飲まれない良識人であり、心強い助け舟であろうクロに手を差し伸べる。
しかし、クロも勘違いの言葉に惑わされていて、母として愛娘の門出を祝うか。幻の彼氏がどんな人物か見極めるべきかで、頭を抱えて悩んでいた。
そんな子を真面目に想う母の葛藤に、花梨は一旦嬉しくなるも、勘違いされている事により複雑な心境になり、口元をヒクつかせる。
助けを求められる者がおらず、事の発端を起こした楓に弁明を求めようとした矢先。胸ぐらを掴んでいた手に引き寄せられ、顔を無理やり依然として睨みつけている鵺に合わせられた。
「でだ秋風。今のお前に、彼氏とやらが居ようが居まいが関係ねえ。もし結婚する事になったら、必ず私に報告しろ。分かったな?」
「ぬ、鵺さんに、ですか?」
「ああ。お前が求める理想の場所、会場、日時、ウェディングドレス、会場のコーディネート、料理、一日の流れ、新婚旅行まで全部私が完璧にサポートしてやる」
「……全部?」
「全部だ、全部私がやる! こちとらなあ、ウブったらしい八吉のせいで完全不燃焼なんだよ。もし言わずに結婚式を挙げてみろお? どうなるか分かってんだろうな?」
「え〜っと……。どうなるん、でしょうか?」
「どうなる? あ〜……」
まさか、聞き返されるとは夢にも思っておらず。このまま押し通せるだろうと踏んでいた鵺の瞳が、細まりつつ右に逃げていく。
本当に何も考えておらず、鵺がぶつくさと言いながら固まってしまっている所。先ほど花梨に言い包められた八吉が、「へへっ」と笑った。
「花梨も、そのうち結婚すんだよなあ。その時が来たら、是非俺も呼んでくれよ?」
「私も絶対に呼んでよね。何があっても必ず行くから」
「あっはははは……。まあ彼氏がいないので、その内にでも」
今回の主役である神音も加わってくるも、いつ来るか分からない未来のせいで確約が出来ず、苦笑いで誤魔化そうとする花梨。
が、静観していた楓がそれを許してはくれず。ここぞとばかりに妖々しい笑みを浮かべた。
「花梨よ、安心せい。ワシがちゃーんと、理想の美男を見つけてやるからの」
「ま、まだ言いますか……。でも、結婚かあ。私が結婚するなんて想像つかないや」
「そんな事を言いおって。学生の頃、よくらぶれたぁを貰っとったじゃないか」
「ぶっ!?」
会場に居る大半の者に突き刺さりかねない楓の爆弾発言に、真っ先に「は?」と反応したのは、未だに花梨の胸ぐらを掴んでいる鵺だった。
「楓、その話詳しく聞かせろ」
「よいぞ。あれは確か、花梨が高校二年生の時じゃったか」
「だぁぁあああーーっ!! 楓さん、それ本当にダメなヤツ! ていうか、なんでそこまで知っているんですか!?」
「ほっほっほっ、ワシを誰だと思っとるんじゃ? 千里眼で全てお見通しじゃ。それでの―――」
楓が暴露話を続けようとするも、花梨は大声を出し続け、その話を阻止しようとする。
しかし楓は、目をギンギンに輝かせている釜巳に催促され、花梨の叫び声にかき消されていく暴露話を続けていった。
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