2050年 日本は、日ノ本では無くなった

Ittoh

第1話 日本は、日ノ本ではなくなった

日本は、日ノ本ではなくなった


2050年 日本は、日ノ本ではなくなった

 超少子高齢化社会が進捗していく。それは、大きな闇である、無子超高齢化社会を生み出していったのである。日ノ本には、無子超高齢化社会が蔓延し、各地に限界集落が生まれていった。

 無子高齢化社会には、未来は無い。未来が無くなれば、どのような相手であっても、受け入れるようになってしまう。2014年時点で、人が住んでいる地域の20%が、2050年には、人のほとんど住んでいない地域となる。そんなデータが発表されても、誰も、誰かが何とかしてくれるのだと、自分は大丈夫だと言っていたのだ。

 こうした状況を背景として、特別養子縁組という制度を利用した、限りなく無村に近い寒村が、占領されることとなった。七件しか家が無ければ、七人を説得すれば良い。七人に対してだけ、親切であり、サービスを提供すれば良い。凄まじいまでのブローカーによるサービス戦略。

 悠久の流れで世界の中心と言い張る国は、莫大な予算と人をつぎ込んで、最初は数人から初めて、徐々に拡大していった。この動きに遅れじと、欧米諸国もまた大量の人と予算を継ぎこんで、勢力圏を拡大していったのである。

 そして、2050年には、国土の30%に海外からの養子縁組を介して、一億人の人間が住むようになっていた。結果として、日本の人口は、右肩上がりとなり、経済力もまた回復していったのである。




 だがしかし、、、名を問うなかれ、日ノ本と呼ばれた国は、闇の中へと消え去っていったのである。




 タラタタァ。たらたたらたたぁ、たたた、たぁたぁー




お爺ぃは、世話をしてくれる、北欧から来た介護士の資格を持つ養女に呟いていた。

「まぁ、こんなこったろうねぇ」

「父さん、どうかなさいましたか」

まだ、歩くこともできる爺ぃの日本人は、手がかからないという意味で好物件扱いになっていた。

 十年ほど前、求人票に、福祉条件に養子縁組おこないますと記載して、介護士の資格を持った人を募集。来たのは、彼女だった。ティアという娘だ。一緒に住んでいるうちに、ティアが彼氏というフランス人を連れてきて、結婚したいということで承知すると、数百人くらいが集まる、結婚式を挙げて、子供が三人生まれて、家族が増えていった。




 ちゃぶ台は無くて、テーブルに数人の家族が住み、ソファーに座ってテレビを見る。

 いつか、どこかの昭和のドラマで見たような生活。新聞ではないが、電子書籍で本を読み、ボードゲームでダイスを振って、カードを楽しむ。娘のティアは、私が教えているうちに、かなり強くなっていて、世界中でも有名なプレイヤになっている。負けて悔しがっている婿が、自分にも教えて欲しいと言っていた。色々なところで戦っている。私自身も去年までは、付き添いという名目で、ティアとまだ旅ができる状態ではある。ティアは、介護士としても娘としても素晴らしい女性であった。




 私とは、日本語をカタコトで話しながらも、フィンランド語やフランス語飛び交い、これもまた人生だなぁと思いつつ、日ノ本は消えても日本国は残り、彼女のような人たちが、新たな日本という国を形作っていくのであれば、それはそれで良いのかもしれない。




 或る日、にっこりと笑って、百歳の正月七日。ケーキを出した娘の笑顔を、私は忘れないだろう。

「百歳の誕生日おめでとう、お父さん。毒入りのケーキです」

「あぁ、ありがとう」

 新たな姥捨て山ということか。百歳ともなれば、牢獄のような施設に入って、余生を過ごすか。それとも、、、自分で自分の人生を幕を引くか、それを決めることが求められていた。この年まで意識があった自分を褒めたいものだ。

 さすがに、昨年の海外旅行は、かなり厳しかった。娘はかなり無理をして、帰りはファーストクラスをとってくれた。来年も一緒に行こうと言ってくれたが、海外旅行はもう難しいだろう。

 私自身が、日本へ帰国した時に、薬を注文した。眠ったように消えて行ける薬を、、、そして娘に渡したのだ。




 2050年正月七日。日ノ本は去りゆく宵闇に消えて、日本は残った。

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