試作

@captorima

第1話段プロト

目を覚ました。寝室には湿気がこもり、ぼくは体を丁寧にかきむしっている。

ぼくは寝室にいる。

おかしいと気づく。そんなはずはない。でもどうして。

なにが

ねぼけてるのかな。

‐ごはんだよ、××‐

母さんが呼んでる。ぼくはベッドを後にして、テーブルへと向かった。

今日は最後のフレンチトースト。甘くてふわふわで、スーっとして。

まるで、フレンチトーストじゃないみたい。


『「寝室」とはなんだ?』

『言葉の意味が分からない』


‐今日もお前が一番だな-

そんなやめてよ、ぼくなんてたいしたことないよ。

友達がいる。ここは教室。ぼくは学校に来てたみたいだ。

‐うるさいな、あのプリントをみろよ。お前は一番だろ。そんなことも分からないのか‐

‐やめてやれよ、こいつには分からないんだよ‐

‐知ってる、からかってんだ。××を‐

‐アハハ‐

笑い声、笑い声。

ごめん

そうだった。ぼくにはよく分からなくって。忘れてた。あやまらなくっちゃ。

でもユピターくんはぼくの話を聞いてくれない。いつも聞いてくれない。なんでだろう。

大きな声でユピターくんたちが、面白そうに怒鳴る。教室中に聞こえるように。

そのうち、けんかになった。クラスを巻き込んで。

‐ユピター君が××をいじめてる‐

‐お前だってこの前、××の事グズだって言ってたじゃないか‐

‐そんなこと言ってないわ‐

‐私たちは××くんのことなんか話したことないわ‐

‐悪いのは、××くんの事思いっきりぶったユピターくんたちじゃない‐

ぼくはぶたれてなんかない。ユピターくんにぶたれたことなんて一度もない。

ユピターくんにぶたれた傷が痛みだした。頬がいたい。ズキズキモゾモゾする。足に力が入らない。

どうやら、今、骨にヒビが入ったみたいだ。ぼくはお医者さんのようにすぐに分かった。前にも骨にヒビが入ったことがあったから。


『僕の骨にヒビが入ったことはない』


女の子の一人がユピターくんをぶった。しかし誰もそのことに気付かない。

‐なんでお前ら××の事をかばおうとするんだ‐

‐わたしたち、べつに××くんの事かばおうなんて思ってないわ‐

‐ユピター君は最初に殴るのが××くんってだけで、‐

そう。ユピター君は僕の次には他の子に暴力をふるっていた。

勇敢な女の子たちはユピターくんを恐れていたのだ。

そうでない女の子たちは、油断したすきに子供をつくらされていた。


『泣きながら腰を振る、大人の男たち』


‐ちがう、俺はただ‐

‐私、先生呼んでくる‐

教室には4、5人の男子とぼくが取り残された。

ぼくには誰がユピターくんなのかは分からないが、男子たちはあふれるように怒っていた。


『ユピター君は、白と赤の服を着た、背の低いあの子だ』


ごめんよ

‐お前、ふざけんなよ‐

‐お前のせいだぞ‐

ごめんよ、ゆるしてよ

‐ダメだよ。お前にはこの罰をきちんと受けてもらうからな‐

‐そうだ。ユピター、あの子に告げ口してやろうよ‐

‐いいな、それ‐

‐決まりだな‐

ぼくは拒絶している。

そんなこと、やめて。やめてよ。お願いだから。無理だよ、そんなの。

‐みろよ。こいつ泣いてるぜ‐

‐絶対に告げ口してやる‐

ぼくの一番恐れていたことを言い当てられた。

逃げなくちゃならない。もうここにはいられなくなった。なぜユピターくんたちはあの女のことを知っているんだ。なんでそんなにぼくの嫌がることばかりするんだ。

殺してやる。なんで生かしてやらなきゃいけない。


『人が生きるのに理由なんてない』


ぼくは凶暴な気分になっていた。

頬の傷がうごめきだす。ズキズキと、痛い。

ユピターを殺してやる。道連れにしてやる。


『僕の骨にヒビが入ったことはない』

『僕の頬に傷があったことはない』


だんだんだんだんだんだんだんだんだん。

ガタンゴトン。

大きな音がして、つっこんできた車にユピターくんは強く、はね飛ばされた。

大きな鉄の塊に過ぎない車に、ぼくの意思が通じた。

ぼくの勝ちだ。

嬉しかったけど、ぐらぐらになったユピターくんを見て、怖くなってきた。

ユピターくんは車に轢かれたけど、なぜ僕は轢かれてないんだろう。

こわくなったぼくは、教室から逃げ出した。先生に見つかって、ユピターくんじゃなくて僕が怒られることになった。

先生はいいにおいがする。コショウと重油と、女の子のにおい。

車を運転したのは、先生だ。すぐわかった。


『僕はこの男の匂いが嫌いだ』


車は怖かったけど、先生は怖くなかった。先生の笑顔がぼくはすきだったけど、ぼくは先生の怒る顔はもっとすきだった。


『僕はこの男の笑顔を知らない』

『僕はユピターに殺意をもってなかった』

『なのに車はブレーキをかけなかった』

『僕はユピターに殺意をもってなかった』

『「教室」の意味が分からない』

『車は「教室」と僕の知る世界をつないだ』

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